平凡な暮らしの中で-8
「ねぇ、カズヤさん、マイさんとは上手くいってる?」
「え? そりゃあ、悪くはないと思ってますが……」
「ちゃんと可愛がってあげなきゃ、駄目よ」
「可愛がるって、一体どういう意味で……?」
「好きな相手に触れられると、とても幸せになるから」
「そう、なんですかね」
ユウコは普段より、何か一歩踏み込んだ事を言っている。
マイが彼女に何か相談でもしたのだろうか。ユウコをおぶっていると、彼女の体温がじんわりと俺にも伝わってくる。
「ねぇ、ちゃんと触れてあげてる?」
「……そりゃ、たまには、ですかね」
「たまにじゃ可哀そうよ。あんなにカズヤさんの事好きなのに。寂しくすると、何かよからぬ事になってしまうかもしれないわよ?」
「そういう、ユウコさんはどうなんですか?」
「わたしに、そういう事聞いちゃ、ダメよ」
「ユウコさんから、話を振ってきたのに」
「フフ、そうね。わたしは、トシオさんの事が好きよ。でも、トシオさん最近忙しいのよね……」
「そう、なんですか……」
「だから、さっき公園であんな声聞いた時、少し変な気分になっちゃったわ」
「えっ?」
「だって、女の人、すごく嬉しそうな声出してたし……あら、わたしったら、おかしな話しちゃったわね。フフ、今の話は、忘れて」
「は、はぁ……」
つい、ユウコに話を聞き返してしまっていた。
彼女からしてきた話題だが、そういう話を彼女と今までしたことは、当然無かった。
直接的ではないものの、それとなくユウコは最近物足りない事をほのめかしている。
一体、どういう意図で俺にそんな話をしたのだろう。おかしな妄想をしてしまう。
体に彼女の柔らかな感覚がある。歩を進め、体が上下動するたびに、彼女の胸が背中に押し付けられた。だが、まもなく自宅に到着だ。名残惜しいが、この感触ともお別れという事になる。
「ありがとう、カズヤさん。足、もう大丈夫そうだから、ここまででいいわ」
「本当に、大丈夫ですか?」
「ええ、それよりマイさんのこと、忘れちゃダメよ」
「それは、まぁ……」
ユウコを家の前で下ろすと、少し足を引きずりながらも、玄関まで歩いて行く。
その前で振り返ると、俺におやすみなさいと言い家の中に入っていった。
俺も同様に返事をし、自宅に戻る。
マイもそうだが、ユウコの事も気になる話だったな。
トシオは、あまりユウコに構ってやらないのだろうか。
しかし、半年前に二人の行為を俺は見てしまっていた。外で、あんなに情熱的にしていたのに、ユウコはまだ物足りないのだろうか。それともたまたま久しぶりにああなっただけで、あれ以降はあまり無いという事なのか。
先程のユウコの柔らかさを思い出しながら、俺はユウコの話の真意をはかりかねていた。