平凡な暮らしの中で-3
ピンポーン、と呼び鈴が鳴った。
全く、なんてタイミングに……マイが、いかにも不満そうな顔をしている。
「あの、隣のユウコですけど……お料理作りすぎちゃったから、よかったらもらってくれないかしら?」
ドア越しによく通る声が聞こえた。ユウコさんか。これは、出ない訳にはいかない。
おずおずとズボンをまた引き上げ、身なりを整える。マイも不承不承、それに倣った。
そして、一呼吸置いてから、ドアを開ける。
「こんばんは、ユウコさん。いつも色々差し入れてもらっちゃって……」
「ほんと、まだあたし夕食の準備してなかったから、すごく助かります!」
「トシオさんが鯛を何匹か同僚の方から頂いたみたいで、お刺身と煮付けにしてみたの。よかったら……あら、マイさん、何か顔が赤いわよ? 熱でもあるのかしら?」
「え…!? い、いや、そんな事は……」
マイが慌てて顔を手で抑え、ははは、と笑って誤魔化した。
ユウコは心配そうにマイを見つめている。俺はユウコが手にしている鍋をどうもどうもと作り笑顔を浮かべながら受け取った。受け取る時に、ユウコの胸元の大きく開いたTシャツから、大きな谷間がもろに目に入ってしまった。ブラを、つけていない……?
思わず、しばし視線をユウコの胸に集中させてしまうが、ふと我に返ってまた視線を上げた。ユウコは、知ってか知らずか艶っぽく微笑んでいる。
俺は鍋を手にしたまま何を言っていいか分からず、固まってしまっていた。
「それじゃあ、カズヤさん、マイさんが体調悪そうなら病院、連れて行ってあげてね」
「病院なんてそんな。あたし、大丈夫ですよ」
「ほんと、いつもありがとうございます、ユウコさん」
ユウコは、鍋はまた取りに来るからと言って帰っていった。
去り際に俺の顔をチラと見たような気がするのは、俺の勘違いなのだろうか。
「ふぅ……もう、ユウコさんも、気が利かないんだから……」
「おいおい、夕食貰っといてひどい事言うなよ、感謝するべきなのに」
「カズちゃんも、まーたユウコさんじっと見て、デレデレしちゃって」
「してないだろ? 変な勘ぐりはよせよ。それより、食事にしようぜ」
「ちぇっ……」
マイはさも残念そうに鍋を俺から受け取ると、夕食の準備にとりかかった。
気をそがれてしまった。さすがに、さっきの続きという雰囲気にはならない。
でも、マイには悪いことをしたかな。実は、結構久々だったのだ。
別にユウコさんが意図的に邪魔しに来たわけでもないのだから、仕方がない。