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比重
【悲恋 恋愛小説】

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-1

「たった一年だ。出向だからさ。戻って来たら、結婚準備しような」

「週に一度は新幹線でここに来るから。心配するな」

 そう言ってじっくりと私を抱いたのは、付き合って二年になる男だ。
 彼の大きな身体の上を泳ぐように抱かれる雰囲気が好きだ。
 抱いた後は大抵、二人で酒を呑む。どちらかが眠くなると、再び布団に入り、眠りにつく。

 1Kの狭いアパートも、新築というだけで相場より高くなる。それでも内装の綺麗さに惹かれてこの部屋を選んだ。
 二階の角部屋で、掃き出し窓から桜の樹が見える。階下には梅の木が植えられている。そんな所も気に入った要因だ。

 布団を敷くだけで一杯なこの部屋で、男と一晩過ごすのは少し窮屈で、とても幸せで。
 三月の終わり、男は新幹線で関西に出向した。
 カーテンを開け、掃き出し窓から見える桜の木は、満開を通り越して春風に乱れ咲いている。窓を開けると花弁がヒラリと舞い込んで来た。
 頭上でセキセイインコの「スカイ」がピヨと鳴く。抜けるような青空の色をしているので「スカイ」と名を付けたのは、男だ。


 一週間後、土曜の夜に男は約束通りここへやって来た。
「俺は守れない約束はしない」
 予め煮ておいた豚の角煮とかぼちゃの煮物、サラダと味噌汁を配膳し、ちゃぶ台に座る。
 この部屋の内装には似つかわしくない、古臭いちゃぶ台だ。事故で死んだ両親の形見の様な物だ。
「お前の作る料理は世界一だな。男の胃袋をつかんだ女は強いぞ」
 そんな事を言いながら、夕飯を食べた。たっぷり作った角煮が、あっという間に空になった。
 ユニットバスのシャワーを浴び、布団に入って男を待つ。
 スカイの水を替えてやるのを忘れていて、一度裸のままでキッチンへ立ち、水を替えた。替えたての水が好きなスカイは、すぐに水飲み場に降りて来て、水を飲む。
 男はタオルだけを被り、布団に入った。
「離れるのは、嫌だなあ」
 そう言いながら、男は私を抱いた。

 夜空に向かって伸びる桜の枝からは、もうすでに桃色の花弁は散っていて、代わりに淡く柔らかい緑色の葉が芽吹いていた。


 一週間後、男は現れなかった。
 携帯電話の番号は知っていたが、掛けなかった。メールも送らなかった。
 重い女だと思われたくなかったから。
 日頃から極力、電話は掛けないようにしている。
 二人分作ったオムライスの一つにラップを掛け、一人で片方を食べた。もう一つは明日食べよう。
 スカイが鳥籠の中で頻りに頭を上下に動かしている。あれは何なのだろう。


 その一週間後、男はやってきた。
「仕事が忙しくてさ。一週間ずれちゃったよ、すまない」
 先週と同じ、オムライスをちゃぶ台に載せた。
「うまそうだなあ」
 そう言って男はオムライスを抱え込むようにして食べた。
「あと一年、待ち遠しいな」
 そう言うと私を強く抱きしめ、セックスをした。


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