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花火
【女性向け 官能小説】

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プライベート・ビアガーデン-2

15時少し前。
花見の時にも活躍したちょっと大きめのランチボックスに出来上がった料理をつめ、バスケットに入れて新谷のマンションの最寄駅に到着した。
花火大会の会場はもう何駅か先らしいが、浴衣姿の女子が目立つ。

…やっぱりなんとかして浴衣調達すればよかったかな?

悩みに悩んで、涼しげな青が気に入って購入した、自分のワードローブの中ではレアなワンピースを着てみたけれど。
15時になったことを確認して新谷に電話をすると、すぐそばで聞き慣れた声がして驚く。

「進藤のことだから時間よりちょっと早めに着いてるんじゃないかと思ってさ」

目の前に立った新谷は、浴衣姿で思わず見とれる。

「いいじゃん、ワンピース。普段もそういう格好すればいいのに」

「はぁ」

「おまえさぁ、褒めてるんだからもうちょっと可愛い反応しろよ。ほら、貸せ。重いだろ?」

すっと差し出された新谷の大きな手に、バスケットを大人しく預ける。

「新谷さん、浴衣似合いますね」

「だろ?オレは何着ても似合うんだよ」

「はいはい、そーですね」

「進藤可愛くない」

抑揚のない声で答えた私に、むくれる新谷。
こんな他愛もないやりとりも、もうあと少ししかできないんだ。
普段とかわらない会話をしながら、3分も歩かないうちに新谷のマンションにたどり着いた。
ファミリー向けのその分譲マンションは、本来新谷の姉夫婦が暮らすつもりで購入したらしいが諸事情で新谷が住むことになったと前に聞いたことがある。

「入って。散らかってるけど」

「お邪魔します…ってどこが散らかってるんですか?」

「一応女性をお招きするわけですから、今日は早起きして掃除を頑張りました。ほれ、そのソファにでも座って」

シンプルだけど、居心地のいい空間といったイメージのリビングに通される。

…そうか、一応女性なのね、一応ね。

促されるまま私がソファに座ったことを確認すると、新谷はキッチンへ移動し、冷たい麦茶を入れて戻ってきた。

「あれ?いい香り」

「あぁ、葡萄の麦茶。ちょっと飲んでみ?」

「葡萄?いただきます…あ、美味しい」

「オレも最初はどうなの?って思ったんだけど飲んでみたら美味いだろ?きっと進藤も好きだろうなって思ってさ」

当たり前のように隣に腰を下ろす新谷に、思わずドキっとする。

「コーヒーはブラックしか飲みません、みたいな顔してフレーバーティー時々飲んでるもんな」

「よくご存知で」

「3年間、平日はほぼ毎日一緒にいるだろうが」

「確かに」

3年間、平日はほぼ毎日一緒にいる、がもうすぐ、いた、の過去形に変わってしまう。
思わずしんみりしそうになったとき。

「進藤、目つぶって」

「なんですか?突然」

「いいから目つぶれって」

「はぁ」

いたずらを思いついた子供のように新谷に言われるがまま、目をつぶった。
ソファから新谷が立ち上がり、少し離れた気配がする。

「…新谷さん?」

大人しく目をつぶったまま、少し不安になって呼んでみる。

「もうちょっと待ってて」

「はぁ」

戻ってくる足音。
膝の上に紙袋が置かれた。

「いいぞ、開けて」

目を開けると目の前に笑顔の新谷がしゃがみこんでいる。

「それも開けてみて」

言われるまま、紙袋をそっと開く。

「…浴衣?」

「あぁ」

「私に?」

「他に誰がいるんだよ。進藤浴衣持ってないっていってたしさ。今日姪っ子の浴衣買いに行ったんだ。そのとき見つけて、進藤に似合うんじゃないかなって。3年間進藤には迷惑かけっぱなしだったし、何かお礼がしたいって思ってたから」

「…ありがとうございます。でも迷惑かけてたのは私のほうで…」

嬉しくて、寂しくて、泣きそうだ。

「んなことねーよ。きっついことばっかり言ってたのに、進藤は泣き言も言わないでちゃんとやってきたじゃん。ねぇ、着てみてよ。ワンピース姿もいいけど、進藤の浴衣姿が見たい」

たぶん泣きそうな私に気づいて、まるで子供にそうするかのように頭を優しく撫でてくれた。

「でも自分で着たことないです」

「大丈夫、オレがフォローするから。とりあえず脱いで、コレ着ろ。右側が下で、脇に結ぶひもがついてるから。で、浴衣羽織ったら声かけて」

「はい」

そう言うと新谷は隣の部屋に消えた。
戸惑いつつもワンピースを脱いで最初に渡された白地の肌着のようなものを身に着ける。
浴衣も羽織ったところで新谷に声をかけた。

「おう、上出来」

そういいながら紐を結んだり、丈を調節してくれたり、触りづらい場所は自分でやるようにアドバイスをくれ、帯を結んでもらって完成した。

「鏡見てみる?」

洗面台の前に誘導され、鏡の前に立つ。

「なんか…不思議なカンジ」

鏡に映る私とその背後の浴衣姿の新谷を見て、思ったままを口にする。

「そうか?よく似合ってるよ」

「浴衣着るならこういうの着たいって思ってました」

「だろー?」

「新谷さん…ありがとうございます…」

「なーにそんなにしんみりしてんだよ。ほら。まだ花火まで時間あるけどビール飲むか?」

また優しく頭を撫でられる。

「はい、いただきます」

「そういや昼メシ食ってないから腹減った。進藤が作ってきてくれたヤツ、食ってもいい?」

「もちろん」

せっかくだからベランダで食べようという新谷の提案に従い、作ってきたお弁当箱をベランダに運ぶ。
新谷はキッチンからクーラーボックスを運び出すと、たらいを2つ運び出した。


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