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「未来日本戦記」
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「未来日本戦記」-2

−数日前の話−
一人の学生は店のドアを開けると共に、自分に絡んできた男を投げ捨てた。
「飯が冷めちまったじゃねぇか」
身を翻し、店の中に戻る。
元の席に座り、自分の注文したうどんを食べようとした時、店の主人に声をかけられる。
「兄ちゃん強いなぁ。けどうどんは全然冷めてないだろ?」
学生は、前を開けて着ていた学生服を脱ぎ、椅子の背もたれにかける。
そして言った。
「冷めちまったよ」
「ん?」
「うどんは目の前に置かれた瞬間に食べ始めるのが旨いんだ」
箸で湯気の立つうどんを一、二回掻き混ぜて、一気にうどんをかき込んだ。
「まぁ、親父さんのは冷めても旨いけどな」
学生の言葉に、笑顔を見せる。
「すっかり常連だな、兄ちゃん」
「ここのうどん旨いからなぁ」
「名前は?」
学生は箸を止め、口の中にある物を飲み込んでから喋る。
「龍。風雲時龍(フウウンジリュウ)」
ワイシャツの袖をめくり、左上腕にある龍のタトゥを見せて名乗る。
それを見て主人は驚いたが、すぐいつもの調子に戻る。
「かっけぇな、兄ちゃんの名前とタトゥ」
「龍って呼んでくれ」
主人は言われた通りに遠慮する事もなく、親しみを込めた声で言った。
「龍、俺はお前さんが気に入った。それタダにしてやるよ」

「いいのか?」
「また店に来るって条件があるけどな」
主人はからからと笑う。
龍は「そうさせてもらうよ」と言って、食べ終わったうどんの器に箸を置いた。
「ごちそうさん」
「あいよ、また来な」
店のドアを開け、主人に小さく礼をして出ていった。

膨れた腹をさする。そんなに食べた訳じゃないが、タダの飯は何だか旨く感じる。
「冷めてなきゃもっと旨かったんだけどなぁ」
小さくぼやく。
その時、近くの路地裏から怒号が聞こえて来た。
「冷めてんじゃねぇよ!」
びくりと反応したが、その言葉は自分に対してのモノじゃないと把握する。

「ま、紛らわしいな…一体なんだ?」
適当に様子を見に行こうと思った。だが、見に行けば自分はつい話に加わってしまうだろう。
自分の性格はそういうものだと把握している。
「別にヒーロー目指してる訳じゃねぇんだがな」
近くの路地に入っていった。

 どんどん人同士が言い争う声が大きくなってくる。
しかし、変である。
二人はお互いに言い合ってるような感じがしないのだ。
まるで、もう一人いるような…。
「ん?」
曲がり角から顔だけを出し、奥を見る。
二人の男に、一人の男。
「はぁん、そういう事か」
大体の状況を理解した。

詳しく話の内容を聞こうと、聴覚を研ぎ澄ます。
「何余裕こいてんの?てめぇ自分の状況分かってんのか!」
「すいませんでしたって言やぁいいんだよ!」
ガラの悪そうな二人の男。
龍にとっては「悪そう」なという印章であるが、一般市民から見れば明らかに「悪い」である。
その二人の前にいる、きちんと学生服を着た男が、二人の罵倒など気にせずに平然と立っている。
「ただのパーか?」
男をよく見ると、腰に刀を持っている。
目は閉じられ、瞼には横一線に残った刀傷。
「お、おいおい…」
いつの間にか、汗が自分の顔を流れているのに気付く。
冷や汗。

見えない壁を隔てて見ているから出てきてしまうのだ。
「あれ…『越えし者』じゃねぇか…!」
男が持つ独特なオーラを、龍は感じ取る。
ただの越えし者なら気付かない。気付くという事は、かなりの腕を持つという事だ。
「お、おい!何やってんだ!?」
越えし者に喧嘩を売る事は、高い確率で死を意味する。
龍はたまらず飛び出していた。
「五月蝿ぇ!」
「あっち行ってろ!」
「いやぁ、何かほっとけなくてだなぁ」
(お前らがな)
心で呟く。
「殺すぞてめぇ!」
その言葉に、瞼に刀傷がある男は反応し、刀の柄に手をかけた。
(まじぃ!)
龍は走った。


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