チケット-5
何が何だかまるで分からないが、好きな相手にお願いされたらどうしようもない。
言われたとおりにした。目も閉じる。思えば、少々エロい状況な気もしないでもない。
まさか、彼女は俺を拘束して、あんな事や、そんな事を……。まさかな、彼女がそんな。
その瞬間、手に冷たい感触。ガシャン。後手に手錠をかけられた? 本当に俺を拘束?
驚いている中、足首にも同様に錠がかけられた。これで完全に身動きが取れない。
いい加減、冗談にも程があるだろう。思わず、強い口調で訊いた。
「ねえ、キリシマさん、なんでこんな事を? そろそろ説明をしてくれないと」
目を開けて、僕はサクラの顔を見つめた。
しかし、彼女は、僕の方を向いていなかった。
その切れ長の目の熱っぽい視線を、扉の方に向けている。
そしてその扉から、いきなり大柄な男が入ってきた。
この男は、確かサッカー部のキーパーをやっていた……。
カワグチとか言ったか。今時にしては珍しく、短髪で無骨な感じの、飾りっ気のない男だ。
キーパーという激しいポジションに相応しく、長身で筋肉質な体をしている。
その無表情のカワグチの顔を、サクラが見つめている。
部室に忘れ物でもしたのか?
だが、どうもそういう風ではなさそうだ。
「随分時間かかったな。お前が考えたことなんだろ?」
「ごめんなさい、ユウヤ君。もう準備出来たから……」
「ちょっと、キリシマさん!? どういうこと? 彼は何でここに?」
ユウヤは一瞬、チラと無表情のまま、僕を見やった。サクラは、僕を見ていない。
サクラはユウヤに近づくと、そのまま彼の太い首に抱きつき、目を閉じてキスをした。
……なんだこれは。
衝撃だった。僕はただ、告白の返事を聞きに来ただけなのに、どうしてこんな……。
高校生らしくない、貪るようなキス。
むしろサクラの方から、ユウヤの唾液を体内に取り込もうとしているように見えた。
一体、何なのだ。この二人は、何をしているのか。
おい、いい加減にしろ!
その言葉が口から出る瞬間、ユウヤは口元に吸い付いているサクラを、うっとおしげに引き剥がした。
皮肉にも、ユウヤは僕が思っていた事と同じ事を口にした。
「おい、いい加減にしろよ、いつまでしてんだよ。それより、ほら、早く」
「ご、ごめんなさい、ユウヤ君。あたし、久しぶりで興奮しちゃって……」
「どうでもいいよ、それより早くしろって」
「は、はい……」