チケット-11
放課後。僕は、屋上にいた。
彼女に告白した場所だった。今は、男に呼び出され、再びここに来ている。
ユウヤである。そのユウヤが、缶コーヒーを僕に投げてよこした。
僕は、それを受け取る。
それを横目で見て、ユウヤは一言僕に漏らした。
「……あいつさ、変態なんだよな」
僕の知らなかったサクラの一面を、ユウヤは端的に一語で言い表した。
僕は、黙ったままだ。あれが一体何だったのか、今でも把握しきれていない。
「ああいうんじゃないと、あいつ、満足しないんだ。俺と付き合い出す前からああなんだぜ。全く、誰に教わってきたんだか」
グラウンドの一角で、女子ホッケー部がいつもどおり練習をしている。
僕も、たぶんユウヤも、それを眺めている。
長い黒髪の少女が、他の部員を叱咤する大きな声が響いていた。
「でも、あんな奴でも、俺は好きなんだ」
ユウヤが呟く。この男が許せなかった。今は、よく分からなくなっている。
こんな事をしみじみ言われてしまっては、この男を憎めなくなってしまう。卑怯だと思った。
サクラもやはりユウヤが好きなのだろうか。それとも、変態行為の相棒というだけなのか。
目の前にいるユウヤにそれを聞く気にはなれなかった。
聞くなら、サクラに直接聞きたい。それに、結局まだ告白の答えを聞いていないのだ。
ユウヤが缶コーヒーを開けた。つられて、僕も開けて一口飲んだ。
「お前は、どうなんだ? あいつの事、それでも好きなのか?」
「好きに、決まってるだろ」
「そうか……お前も俺も、あいつと同じ変態なのかもしれないな」
ユウヤは自嘲気味に笑っていた。
去り際に、サクラがお前を呼んだのが分かる気がする、とユウヤは言った。
言われた事の意味は、いまひとつ分からない。
ユウヤとサクラが普段どういう付き合いをしているのかも、よく分からない。
よく分からないが、僕はそれでも彼女が好きなのだ。それは、変わっていない。
屋上から躍動するサクラの様子を、一人、見つめていた。
サクラが不意に動きを止めて、上を見上げた。僕のいる、屋上の方である。
気のせいか、薄っすら笑っている気がした。
そして、僕を見つめていた。あの妖艶な瞳で。
屋上から降りて、帰ろうとすると、僕の靴箱の中に何かが入っていた。
可愛らしい便箋の中には、本人と思われる似顔絵が描いてあるチケット。
顔が少しニヤついてしまう。やはり、奴が言ったとおり、僕もまた――――
−完−