浄化-5
「な!何てやつだ!」龍の話を聞き終わった健太郎は激怒して大声を出した。「許せない!」
「そ、そんな教師だったなんて!」真雪も声を震わせた。
「もう僕、僕・・・・」龍はぽろぽろと涙をこぼし始めた。手に持ったグラスの中にその数滴が落ちてかすかな音を立てた。「悔しくて、悔しくて・・・。」
「わかる。わかるよ、龍。」健太郎は龍の肩に手を置いた。
「僕、何もできなかった!あいつに、あいつに・・・・・、っ!・・・っ!」龍は肩を震わせ、声を殺して泣いた。
「その胸の火傷の跡、ちょっと見せて。」真雪が言って龍の肩に手を掛けた。
「マユ姉、さ、触っちゃだめだ。俺の身体、汚れまくってる!」龍は後ずさった。
「いいかげんにしろ!」健太郎が叫んだ。
「龍くん、」真雪が優しく言った。「もし汚れてるんだったら、あたしが浄化してあげるよ。」
「えっ?!」
「そうしてもらえ、龍。」健太郎は龍の肩をもう一度軽く叩いた。「マユ、龍を頼むぞ。俺、これからミカさんたちに報告してくる。」
「えっ?!か、母さんたちに?」
「そう。親が被害届を出す必要があるからな。大丈夫だ、龍、お前には何の落ち度もないし、お前自身が恥じることもない。」そして付け加えた。「自分の心まで拘束されるな。」
「ケン兄・・・・。」
「いいから俺たちに任せろ。」
健太郎は立ち上がり、部屋を出て行った。
「あたしの部屋に行こうか、龍くん。」真雪が龍の手を取った。今度は龍は真雪の手を振り払いはしなかった。
真雪は龍を自分のベッドに座らせた。
龍はドアの横に貼ってある小さなポスターをちらりと見た。その横にはハワイで撮ったプールサイドでの健太郎、真雪、そして龍がピースサインをして写っている写真も貼られていた。
「龍くん、本当に男らしくなったね。ケンジおじさんにも似てきたし。」
「マ、マユ姉・・・。」龍は赤くなって身体をこわばらせていた。
「あたしね、あなたに抱かれたいって、今思ってる。」
「えっ?!」
「時々想像しちゃうんだよね。あなたに抱かれるの。」
「だっ、だっ、抱かれる?」
「龍くん、あたしとセックスしたい?」
「え?あ、あの、そ、それは・・・・。」
「もう龍くんぐらいになれば女のコとセックスしたいって思うんじゃない?」
「そ、そりゃあ、そそ、そうだけど・・・・。」
真雪は静かに龍の両肩に自分の両手を置き、そっと唇同士を重ね合わせた。龍はびっくりして目と唇を固く閉じた。一度口を離した真雪は、もう一度、今度は龍の両頬に手をあてて、唇を近づけた。するととっさに龍は目を開けて真っ赤になって叫んだ。「マ、マユ姉、僕、汗かいてる。シャワー借りていい?」
龍から手を離した真雪はその手を腰に当てて笑った。「いいよ。」
「ごめん。マユ姉。」
「着替え、持って来てないよね。」
「あ、」
「あたしのショーツ、穿く?」
「ええっ?!」
「って冗談だよ。仕方ない、ケン兄のを借りよう。」真雪はそう言って、勝手に健太郎の部屋に入り、勝手に青いビキニショーツと黒いTシャツを持ち出して龍に手渡した。「はい。これでいい?ビキニなんて穿く?」
「う、うん。僕も、いつもこんなのしか穿かない。」
「そう。ケン兄と好み、同じなんだね。」
「いいの?ケン兄に怒られない?」
「大丈夫。あたしがちゃんと断っとくから。」
「ありがとう、マユ姉。」
「バスタオルも好きに使ってね。遠慮しないで。」
「ごめん。ありがとう。」
龍は部屋を出て階段を降りていった。