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結婚記念日
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離婚-1

…青天の霹靂、とはまさにこのことだろう

「話があるんだけど」

そう言っていつもより早く帰ってきた妻の顔は、いくらか疲れているように見えた。
結婚9年。
結婚してもなかなか子宝に恵まれなかったこともあり、妻はずっと仕事を続けていた。
ここ数年は役職もつき、『忙しすぎ』『疲れた』が口癖にはなっていたけれど、充実しているように見えた。
仕事をしている彼女を見るのが好きだったから、そのことについてオレが何か言ったことは一度もない、と思う。
むしろ彼女が働きやすいように、家事も何もサポートしてきたつもりだった。
夫婦仲はこれといって悪くもなく、むしろいいほうだと思う。
お互い趣味は全く違ったけれど、それでもお互い一緒に楽しめる部分は楽しんできたし。

「どうした?」

「うん。離婚して」

そう言って通勤バッグの中からクリアファイルを取り出し、オレに差し出した。
挟まれていたのは、もう妻の署名捺印と、一人分の証人の署名捺印が済まされた離婚届だった。
証人欄の署名捺印は、婚姻届にも証人として署名捺印してくれた、妻の親友の名前。

…これは本気だ。

もうその時点で覚悟は出来ていたのかもしれない。
でも聞かずにはいられないし、聞く権利はあったと思う。

「どうした?」

「どうもしない。ずっと考えてた」

「いつから?」

その質問には答えてくれなかったけれど。

「別にあなたのことが嫌いになったとか、憎いとか、他にオトコができたとかそういうのじゃないの」

「じゃぁなんで?またウチの親になんか言われた?」

妻は嫁として、いろいろ努力してくれていると思う。
ウチの親だって、実の息子より嫁である妻のほうが可愛いと公言するくらい彼女を気に入っている。

「子供のこと?今始まったことじゃないじゃない」

一人息子のオレの孫を切望する両親は、そこだけが不満らしく、妻は言葉にはしないが苦労しているようだ。

「まぁそうだけど…」

「この先頑張っても、お義父さんお義母さんに孫を抱かせてあげることはできないのは事実よ」

オレはそれほど子供に対してこだわりはなかった。
恵まれなければ、妻と2人の生活を楽しめばいい。

「それが原因?」

「それだけじゃないけど。そうね、それもひとつね。うまく説明できないけど、この先のことを考えたとき、このままじゃいけないと思ったの。一度全てをリセットしたいの」

こうと決めたら、こう、の人だ。
妻もオレも。
仮にもしオレが『離婚はイヤだ』と泣き叫ぼうが暴れようが、彼女は彼女の道を行くだろう。

「わかった」

オレがそう答えると妻は、ありがとう、とだけ呟いた。

「住むところはどうするの?仕事は?」

「とりあえず実家に帰るわ。仕事は辞表を出して今日受理された」

「そう。あとは財産分与か」

「何もいらないわ。私のワガママで出て行くんだから、何もいらない」

「まぁ何もいらないって言っても、何も出せないんだけどさ」

オレのくだらない冗談にいつものように笑ってくれた。

「ワガママばっかりで申し訳ないんだけど」

「何?」

「ラブの親権だけど…お願いしてもいい?」

父ちゃん母ちゃんの非常事態にも気づかず、ソファの前ででろーんと伸びている娘の頭を撫でたとき、妻の目に光るものがあった。
正直、『何もいらない。でもラブは連れて行く』と言われるんじゃないかと予想していたので驚きはしたが、もちろん断る理由などない。

「ごめんね…疲れたからもう横になってもいいかな?」

「あぁ」

今までと何もかわらず、2人と1匹、川の字に並んで眠った。
突然の申し出に、なかなか寝付けなかったオレとは対照的に、妻はホッとしたのか、本当に疲れていたのかすぐ眠りについた。
もうすぐ見れなくなる妻の寝顔をオレはずっと眺めていた。


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