女への憎しみ-1
「キモいんだよ!あっち行けよ湯島っっ!」
湯島武史、中学2年の頃。小さい頃から内気で太っていた武史は女から毛嫌いされていた。男からは馬鹿にされながらも、特にイジメは受けていなかった。特に女から嫌われていた。
「い、痛いっっ!」
帰り道に石を投げつけられ足を怪我した。
「な、何すんだよ!」
しかしそんな武史に近寄り、血が出た場所を蹴り、うずくまる武史の前に仁王立ちする少女、海老川優里。
「湯島のくせに口答えしてんじゃねぇよ!!」
優里の一言と同時に数人の少女達が暴行を加えた。ひたすら丸くなり必死に耐える武史。気がすむまで蹴飛ばした少女達は、笑いながら離れる。
「湯島〜、顔はやらないでやったよ?私って優しいでしょ?フフフ」
そう笑って立ち去る。
「ううう…。」
うずくまりながらも顔を上げる武史。激痛の中、歩いていく優里の後ろ姿が目に焼き付く。
「ううう…何で僕がこんな目に遭わなきゃならないんだよ…」
血が滲む足を抑えながら涙を流す。
「太ってるから…?弱いから…?女子に虐められるなんて情けないよ…。強く…なりたいよ…」
武史は痛む足を引きずりながら、また明日待っているであろう優里の加虐に恐怖を抱かされていた。
数年後。
高校からボクシングを始め性格も体格も見違える程になった武史。高校入学当初は当然ボクシングの知識も技術もなく、上級生や経験ある同級生のサンドバッグ状態で、逆に海老川優里らからの虐めの方がマシだったのではないかと思う程の扱きに遭う。しかし何も出来ない無能な自分の情けなさと海老川優里らへの憎しみが武史に不屈の精神を植えつけた。上級生らに殴られる度、いつか自分をなめた奴らを見返してやる…、そう誓っていた。
家に帰り密かに筋肉トレーニングと特訓を重ねた武史の肉体は一年生が終わろうとする頃には見事に絞られ筋肉という筋肉が盛り上がりパンチ力は勿論技術も身に付いた。卒業の記念にと上級生らが武史相手にスパーリングをしマットに沈めるつもりで臨んだ所、それまで能力を封印していた武史がその封印を解き放ち、逆に上級生らを病院送りにするという事態になり、それ以降同級生らの態度も変わった。今まで見下していた同級生らが武史の顔色を伺うようになり、状況は一変した。
(強くなるってこんなに気持ちいいものなのか…!)
それ以降、武史の見る世界が変わった。上級生らを血祭りに上げた噂はあっというまに学校中に広まり、もはや武史を見下す生徒はいなくなった。当然陰口を叩く女子ももはやいなくなっていた。
しかし中学までのトラウマが強く残り女と接触するのは抵抗があった。と言うよりは憎しみしか感じなかった。ボクシングを始めたのも、女に馬鹿にされたくない一心だった。ボクシングで強くなりたいとも、女にモテたいとも思った事はない。ただ女に馬鹿にされたくなかっただけだ。
社会人になった今でも、通勤時、女の後ろ姿を見るとあの時の海老川優里の背中が蘇る。と同時になぜか無性に腸が煮えくり返る程の憎しみを感じるようになった今日この頃であった。