忘年会と年末年始-2
年始は四日から仕事だった。
課長は宣言通り、私がクリスマスに贈った紺色に緑の刺繍が入ったネクタイを締めて出社した。私と目が合うと、「おはよう」と言って目を細め、ネクタイに触れた。
「おはようございます」
私は嬉しくて、ネクタイと課長を交互に見て、今すぐにでも飛びつきたいという気持ちを抑えるのに必死だった。
そのやりとりを見ていた涼子が昼休みに携帯をいじりながら口を開いた。
「課長のネクタイ」
「うん」
「クリスマスにあげたの?」
「うん」
涼子は私の顔を見てニンマリした。
「課長、嬉しそうに触ってたねー、ネクタイ。見せつけてくれるねー」
私は耳まで真っ赤になった。「顔あかいっすよ」涼子に指摘される前から気づいていた。
それから間もなく、課長からお泊りのお誘いがあった。
俗っぽく言うと、秘め初めってやつだな。
セックスの最中課長はいつになく激しく私を突いた。少し乱暴な、何かを忘れようとしている様な。何かあったのかな、と思った。
帰省中に何か――奥さんと喧嘩したとか――。異動?あまり考えたくなかった。
事を終えた後に訊いた。
「課長、今年中に異動するなんて、ないですよね?来年もまだ、横浜にいますよね?」
課長はサイドテーブルに置いてあった眼鏡をかけ、私の方を向いた。
「僕もまだはっきりとした事は言えないけれど、今の時点で異動の話は無いよ、大丈夫」
「良かった」
私は課長の手を握った。彼も強く握り返してくれた。その手は温かく、大きかった。この温もりが、すぐに消えてしまうなんて想像できなかった。ずっとここにあって欲しいし、あるべきだと思った。
この幸せを、誰が奪うと言うんだ。そんな事をした奴には天罰が下ればいい。
自分は人に言えない恋愛をしておきながら、そんな風に残酷な考えをする自分こそ、天罰が下るんじゃないか。今あるこの幸せが、酷く恐ろしかった。