神谷君の推測-2
翌朝もまた、写真を見た。
これだけの広い土地に家が建っているって事は、どこか新興住宅地に家を建てたのかな。周りに家、数件だもんな。しかも一件一件が離れている。
歓迎会の時、もしかしたら課長の身の上話が話題としてあがったのかも知れない。幹事業務で精一杯だった私は、殆ど課長の、いや、他の社員の話も、聞いていなかった。
今日は涼子が出勤してくる前に、自分のデスクに戻った。
午後、医薬研究所の請求書を取りまとめ、再計算をしようと電卓に手を伸ばした所で、誤って肘でエンターキーを押してしまった。しかも二連打。
これは何を意味するかと言うと、万が一再計算をして数値が合わなかった場合は計算ミスした数値が上位部署に周ってしまうという事だ。
「しまった――」
誰にも聞こえない位の小さな声で呟いた。手に汗が滲む。
とにかくまずは再計算をと電卓を叩いた。エクセル計算と手計算、エクセル表の確認の三点チェックをしてから送信する事にしているのだ。
案の定、電卓計算の数値とエクセル計算の数値が合致しなかった。
課長がこれらの数値をオンライン決済してから上位部署に送信する筈だ。
「か、課長」
椅子を反転させ、冷や汗をかいた手を握りしめた。事の顛末を話した。
「あぁ、これね、医薬研の。大丈夫、今決済するところだったから。早く気付いてくれてどうもありがとう」
いや、すみませんでした、と掌にかいた冷や汗をスカートで拭った。
私のちょっとしたミスが、課長のミスに繋がる。あぁ、怖い。
それにしても、私がミスして謝ったのに、ありがとうなんて言われた。
何だか変な構図だった。
ありがとうと言った時の課長の目が、酷く優しく、吸い込まれるようで、心臓が一度だけ高く鳴った。
何かこう――調子が狂う。