fainal1/2-14
「分かってるよ!」
強い語気を残して立ち上がると、グラブを掴んでその場を離れて行く。
「おい!ちょっと待てって」
後を追うように達也も立ち上がった。ブルペンへと向かっていった。
「こっちも準備するか」
「そうだな」
皆がストレッチをやめて、二人一組のキャッチボールを始めた。
「さて。俺は、あっちの相手でもするかな」
直也は、佳代の下へと駆け寄る事にした。
「あんまり気合い入れ過ぎるなよ」
一人、ダッシュを繰り返す佳代。荒い息遣いで、かなり苦しそうだ。
「だ……だって……ずっとアップ……やってなかったし……」
「お前の出番は終盤だぞ。それに合わせて調整しないとバテるぞ」
「分かった……」
佳代は直也の助言に頷き、ストレッチへと掛かった。
理屈は解っている。解っているのだが、
「ほら、もっとゆっくりやれって」
「えっ?」
「そんなおざなりなストレッチじゃ、怪我するぞ」
「う、うん……」
久々の試合という事で、どうしても気が急いてしまう。
(こんな気持ちじゃ……折角、此処に立ったのに)
一哉が託した言葉のように、なれない自分に歯がゆさが高じる。
そんな中で、直也は言った。
「そう力むなって。命取られる訳じゃないんだ」
「直也……それって」
佳代にとって、一哉と相反する言葉のように思えた。
「必死になってやるのは当然だが……好きで始めた野球なのに、あんなに追い詰められるなんて俺はごめんだな」
反目ともとれる言葉。なのに今の佳代には、すっと染み込んでくる。
「ありがとう。なんだか、気が楽になったよ」
ようやく、佳代の顔に柔らかさが戻った。
「とっととストレッチやったら、久しぶりにキャッチボールやるぞ!」
「分かった!」
佳代と直也が、仲睦まじくアップを繰り広げている。そんな光景を、複雑な表情で見つめる者の姿があった──尚美と有理だ。
球場に向かう途中、有理から拗れてしまった関係の修復法を相談された尚美だが、自分とてレクチャー出来るほど、経験を持ち合わせている訳じゃない。
どうしたものかと思案を繰り返していたのだが、
「なにやってんだ、直也のやつ。昨夜は有理にあんな告白しといて……」
終始笑顔を振りまく直也を見ている内に、有理ではないが段々と腹が立ってきたのだ。
昨日の今日がこれでは、告白された方も本気には採らない。ふざけてんのかと思う。そんな奴の為に、こちらがあれこれ思案するのが馬鹿々しく思えた。