投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 542 やっぱすっきゃねん! 544 やっぱすっきゃねん!の最後へ

fainal1/2-15

「ねえ、有理……」

 尚美は、ため息混じりに言った。

「……ありゃ、放っときな」
「どうして?」
「あの様子じゃ、すでに試合に入っちゃってるもの。今は頭にないよ」

 自信有りげな尚美の言葉は、有理の心を微妙に揺さぶる。

「どうして、そんな事が尚美ちゃんに判るの?」

 疑念が口を吐いた。そんな有理に、尚美は諭すように答える。

「兄弟一緒だからよ」

 野球一筋。それ以外の、特に色恋沙汰となると臆病な一面が顔を出す。そんな兄貴を知る尚美にとって、弟の直也が如何な気持ちかを探る事など、造作もない。

「なるほどね……」

 的を射た回答は、有理を納得させた。

「だからさ、こっちに近づいて来たら応援してやりゃいいわよ」
「分かったわッ」

 気を取り直した二人は、再びグランドの方に目をやった。
 すると後ろから、誰かが近づく気配がした。

「あ……」

 振り向いた尚美の目に写ったのは、直也の兄、川口信也と山崎和己の姿だった。

「久しぶり……」
「こ、こんにちは」

 信也と会うのは甲子園予選の決勝戦以来。あの日より日に焼けて精悍さが増したように見える。
 思いがけない出来事は、尚美の視線を固まらせてしまった。
 そんな尚美の変化を余所に、信也は伏し目がちに口を開いた。

「席、詰めてもらえるかな?」
「あ、ああッ、はい!」

 声をきっかけに、尚美はようやく呪縛が解けたのか、バネ仕掛けの人形の如く席を立ち上がった。

「ありがとう」

 奥から有理、尚美、信也、山崎の順に椅子に座った。
 有理は、それとなく尚美と信也の方を覗き込む。互いが見合せる訳もなく、交わす言葉もないままグランドに顔を向けている。

(なるほど……さっきまで威勢よかったけど、尚美ちゃんも大して変わらないのね)

 身動ぎもしない二人。有理は秘密でも握ったように愉快な気分になった。




やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 542 やっぱすっきゃねん! 544 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前