夏-1
『夏』
「夏の風物詩と言えば?」
僕の友人、花鳥院風月(かちょういんかざつき)は僕の部屋でやっていた夏休みの宿題をそこそこに切り上げ、突然クイズを出しはじめた。しかも、満面の笑みを浮かべて……。
「さあ。蛍とか?」
「あとは?」
「花火?」
「あとは? あとは?」
「ラジオ体操?」
「あとは? あとは? あとは?」
「甲子園?」
僕が答えるごとに風月の表情はどんどん暗くなっていく。
夏は風月の誕生日がある季節でもある。風月と腐れ縁であるがゆえに忘れるはずが無い。ただ、今までの仕返しということではないけれど、からかってやろう、と思った。
「……」
「大丈夫?」
今まで見たことが無いくらい風月のテンションがだださがりしていく。
「千葉ぁ、ほら!」
早く出してくれよ、答えを、さあ! と訴えてくるけど、僕は知らないフリをした。だから、僕は首を傾げると、ショックを受けたようでうなだれてしまった。
「千葉ぁ。なんで忘れちまったんだよぉ! 大事なイベントがあるじゃないか! ほら!」
「ごめん。知らない」
僕が即答で答えると、風月はさらにショックを受けたようで、いじけてしまった。
「なんで忘れちまってるんだよぉ……」
その様子がおかしくて、笑いながら僕は答えた。
「ジョーダン、だよ。ちゃんと覚えてるよ」
「ホントかっ!?」
風月はたちまち笑顔に戻る。
「忘れるはずないよ。僕たち親友だもんね」
「だよな? オレたち親友だもんな?」
満面の笑みを浮かべる風月に対し、満面の笑みの僕はこう言った。
「スイカ割り、でしょ?」
知らないフリをしていた僕はその後、風月に二時間近く誕生日の大事さを説教された。そして、金輪際風月をからかうのは、やめようと心に誓ったのは言うまでもない。
End