『桃色の旅』〜変態映画館〜-6
『おまえ、そんな年でもう色気づきやがったのかい? ふん、馬鹿のくせに男になんか興味持つんじゃないよ、いやらしい』
母親がハサミを手に取った。ジャキジャキ、と恐ろしい音に心臓が止まりそうになる。おさげに編んだ髪が、ぽとりと畳の上に落ちる。何も言えずに、ただ少女はされるままになっている。
そうだ……あの日から、わたしは髪を伸ばすことを止めたんだった。少しずつ記憶の糸がほどけていく。この先を見たい気持ちと、もうここでストップしてしまいたい気持ちの両方が湧きあがってきた。
場面が切り替わった。これは……夜遅い時間。学習机の電気スタンドだけがぼんやりと照らす部屋の中、その日の勉強を終えてこれから眠るところだ。
少女は音をたてないように、そっと自分の布団に潜り込んで明かりを消した。母親はすでに大きないびきをかいている。薄っぺらい布団の中で、目を閉じた少女の顔が赤く染まる。桃色の唇が何かをかすかな声で呟いている。
『松浦くん……大好き……』
少女の体が小刻みに揺れる。そこで気がついた。ちょうどこの頃に、わたしは自分の体に触れる楽しみを覚えた。まだ小さな子供のままの手が、パジャマの上から足の間に当てられる。中指と薬指でその真ん中を割れ目にそって擦っていると、だんだん気持ちが良くなってくる。そのとき、好きな男の子のことを考えると体が燃えるように熱くなった。
おかあさんに見つかったら、いやらしい子だってまた叱られる。こんなこと、やっちゃだめなのに。でも気持ち良くて、眠る前になるとどうしても止められなくて、荒くなる呼吸を必死でこらえ、涙を流しながらその部分をこすり続けた。もっともっと欲しくて、指をぎゅうっと奥まで押し付ける。すると頭の奥がしびれたみたいになって、そのまま眠ってしまう。
大人になった今ではもうそんなやり方はしないけれど、恥ずかしくて、たまらなく懐かしい気持ちが溢れてきた。当時の幼い快感がそのまま体に伝わってくる。くすぐったいような、微妙な快感。少女が感じたのと同じように体が熱く火照る。
また場面が切り替わる。