お招きの極意-2
「おもてなしが上手だね、中田さん」
「そんな事ないよ。人を家に招く事なんてあんまりないし。彼氏ぐらいだもん」
再度、部屋を見渡した。
「ご自慢の彼氏さんの写真なんかは、飾ってないの?」
彼女はクスッと笑って言った。
「人をお招きするお部屋には置いてないんだ。恥ずかしいから寝室に置いてある」
「あ、今『人をお招きする』って言ったよね、やっぱりおもてなし上手だー」
お日様の様に微笑んだ彼女は「ばれちゃった」と言って口元を押さえて見せた。
「会社の子と女子会したり、パン教室で一緒になった子とパン作ったり、何かと人が出入りするんだ」
彼女はフランスパンを手で千切り、口に運んだ。その細くて白い指は、手入れの行き届いたつやつやの爪に、控えめなベージュのネイルが施されていた。女の私でもうっとりした。
「そうだ、落合さんも今度、女子会に参加しない?同じぐらいの年齢の子ばかりだから」
目を爛々と輝かせてこう誘ってくれたが、私は乗り気ではなかったので断った。
「そういう女の子の集まり、どっちかっつーと苦手でさ、面倒っつーか、あ、ごめんね。別に否定してるんじゃなくて、私は苦手なんだ」
少し眉を下げて、残念そうに「そうかぁ」と彼女は言った。
「ごめん、お手洗い借りてもいいかなぁ?」
席を立ち、「2番目のドアね」と言われたとおり、そのドアに向かって歩いた。
ドアと反対側にある寝室らしき部屋のドアが、半分開いていて、何となしに目を遣った。
その隙間から見える小さな机の上には、写真立てが3つ、置いてあった。
誰が写っているかまでは逆光で見えなかったが、きっと彼氏と写っているんだろう。
元夫だった人間と一緒に写っている写真は、まだ家に残っている。
でも、夫婦になってからの写真は全て燃えるごみに放り込んだ。仕事ばかりだった私と一緒に元夫が写っている写真があったこと自体驚きだ。浮気しながらよくもまぁこんな笑顔ができたもんだ、と元夫の表情にも驚きだった。