梅雨の蝸牛-1
空梅雨と言われる今年の梅雨。
雨は降らない癖に梅雨特有のジメジメ感は否めず、近所のスーパーに買い物に行くだけで、薄ら汗ばむ。
スーパーに行く途中、アジサイの花の葉にカタツムリを見つけた。
殻ぁ背負って移動してるなんて、面倒だろうな。別宅でも作ればいいのに。ずりずり前に進むカタツムリに同情した。
営業の仕事をしていると、外回りの日は帰宅時間が読めず、自炊が出来ない事が多かった。
新しい会社に入って、皆テキパキと仕事をするので、終業時間が早まったのは嬉しい事だ。嫌いじゃない料理も、週に数回、土日は必ず自炊する。
週に1度、このスーパーに買い貯めに来る。
カゴにポイポイと食材を放り込んでいく。
今日は生姜焼き、明日は牛肉の炒め物でも作るか。
先週買った、牛肉の残りが冷凍してあった筈だから、今日は豚肉だけ買い足せばいい。
精肉売り場に足を運ぶと、生姜焼き用の肉に「特売!」のシールが貼られていた。残り2パックだった。
「セーフ」1人呟いて、乱暴にカゴに入れる。
途中、お菓子売り場に寄り道し、チョコレートを買い、最後に朝食用の食パンを大量にカゴへと放り込み、レジに並んだ。
前に並んでいた女性のカゴをちらりと見た。
残り1パックだった筈の生姜焼き用のお肉がカゴに入っていた。
ラスト1パック、この人がゲットしたんだろうか。私より先にゲットしてたんだろうか。
ゲットって何か古臭いな。
カゴから目を離し、そのまま視線を上げて女性を見た。
栗色の髪を緩く巻いている、綺麗な女性だった。
左耳に下がるクリスタル(なのかな)のピアスが店内の照明を反射し、煌めいている。その光が更に彼女の美しさを引き立てている。
見惚れていると、後ろのおばさんに「前、前っ!」と押された。