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Misty room
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Misty room / hello again-2

早朝の霧の中にいるような感覚だった。
いつの間にか彷徨っていたその街に、ひとの姿は見えなかった。
たちこめる霧のせいで、視界だけでなく思考にも、もやがかかる。
記憶は儚く、振り返ることさえ困難。
歩きつかれた私は傍にあったベンチに腰を下ろした。
本当はどうでも良かった。
人がいたって、いなくたって。
ただ私には探しものがあったはずなのに。
今は何を探していたのかも分からない。
私は知らない街にいた。
そこで知らない何かを探していた。
けれど焦りは感じなかった。それはこの場所のせいだろう。
静寂に包まれた街。全てがスロウに過ぎる空間の中で、焦る必要など何も無い。
カーン
カーン
どこかの教会で鳴り響く鐘の音。
たったひとり、この街に舞い降りたものへの賛美歌。
いや、それはこの街に舞い落とされたものへの鎮魂歌。
カーン
カーン
霞む。
景色が霞む。
記憶が霞む。
「こんにちは」
ひとりの男性が話し掛けてきた。
あぁ、けれど明日がある。
私には彼と寄り添う日々がある。
「何か探しものですか?」
そう、私は探していた。
それはきっと素晴らしい。
いつまでも続く穏やかな日々だ。
「こんにちは」
私は返した。それだけで満たされた。
静寂の街、Misty room ――― 二人は再び巡り会う。
そこは二度と別れることの無い世界。
えいえんの、せかい。
私は彼と一緒にベンチを離れた。
霧はまだ晴れない。
きっといつまでも晴れない。
ずっといつまでも晴れない。


Mistyroom/helloagainend


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