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Misty room
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Misty room / hello again-1

そう、彼はこのベンチに座っている私に向かって最初に言ったんだ。
「こんにちは」
私たちの日々は、そこから始まったんだったね。
彼女は栄光の日々に想いを馳せた。
冬。
彼がいなくなって三度目の季節。
息は白く、思い出を揺らす。僅かに光を放つ街灯は、この世に残された女性を照らし出している。ロングコートのポケットに手を突っ込みながら、彼女はベンチを眺めている。
そこに二人の姿を描いている。
「どうして・・・」
はらり、と雪が舞い落ちる。漆黒の闇を彩る白い軌跡。
けれど彼女の頬を濡らすのは、雪ではなく。
彼は言った。
「また会える」
だからきっと逢えるのだろう、ここではないどこかで。
けれど私には辛すぎる。あなたのいない時間は、あまりにも長く、あまりにも重い。
あなたを顧みるのも
あなたを忘れゆくのも
これ以上、私にはできない。
私の肩に雪が降り積もっていく。
それは決して溶けることのない、冷たい雫。
けれど私のこころは、更に凍てついて。
いつまでも探し続けていく。
ずっとこの場所で。
いつか手にしていた温もりを。
思い出だけでは満たされない。
だからずっと、いつまでも。
「それじゃあ」突然、ベンチの上から声がした。
「逢いに行く?」
それは小さな女の子だった。真冬の季節に白いトレーナー一枚の格好で。
私は、はっとした。彼女には見覚えがあった。
彼が事故にあった、その日。現場に彼女の姿があった。
「あなた、誰なの?」
その問いかけに、少女はにっこりと笑う。それはまるで。
「わたし、持ってるよ。あなたの望む世界」
“Mistyroom”―― そこに彼がいるのだろうか。
もしまた逢えるのならば、私は何を犠牲にしてもかまわない。
「逢いたいわ、彼に逢いたい」
「本当に?」
とても真っ直ぐな眼差しだった。だから私は答えた。
「えぇ、本当よ。だから連れて行ってくれる?」
少女は頷いた。
「あなたの余生を、わたしにちょうだい」
視界が変わった。そこは公園ではなく、道路の真ん中だった。トラックが突っ込んできた。いや、トラックに私が突っ込んでいった。運転手は驚いてハンドルを切る。けれど間に合わない。間に合うはずが無い。事実は、そこにある。
直前、私は思った。
『ここは彼が死んでしまった場所と同じだ』
少女は言った。
「彼が逝った世界は、あなたの望む世界とは違うけれど」
もう彼女の耳には届いていない。



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