旅行土産-1
ミーンミンミンミンミン・・・・。
『Simpson's Chocolate House』の駐車場のプラタナスの木で、やかましく蝉が鳴いている。
「すっごく楽しかったね。」龍が真っ黒に日焼けした顔で言った。
「お前たちは?健太郎に真雪。」ケンジが訊いた。
「うん。楽しかった。」
ケネスの家の『離れ』で、7人はテーブルを囲んでいた。床にはアクセサリーや子どもたちのTシャツ、水着、酒やコーヒーなどの土産物が所狭しと広げられていた。
「何が一番の思い出って、やっぱりホテルのプールでみんなで競争したことだよね。」真雪が言った。
「そうだなあ、本当にあれは気持ちよかった。」健太郎も言った。
「また行きたい。」龍が言った。「来年も行こうよ、ねえ、父さん。」
「○こでもドアが手に入ったらな。」
「ケン兄ちゃん、マユ姉ちゃん、ビデオ見ようよ。あっちで撮ったビデオ。」龍が言った。
「よし、じゃああたしの部屋のテレビで見ようか。」真雪が言った。
「うん。」龍はテーブルにあったハワイ土産のマカダミアナッツ・チョコレートの箱をつかんだ。「ま、真雪姉ちゃん、飲み物は、何がいい?」龍が少し赤くなって言った。ビデオカメラを持った真雪が言った。「パイナップルジュースがいいな。」
「わかった。」龍が応えた。健太郎はジュースのペットボトルとコップを3個トレイに乗せた。
「ぼ、僕が持っていくよ。」龍が健太郎のトレイに手を掛けた。健太郎は龍に囁いた。「龍、お前マユにいいとこ見せたいつもりなんだな?」
「そ、そんなつもりじゃ・・・・。」
「ほら、持っていきな。」健太郎は龍にトレイを預け、龍が持っていたチョコレートの箱もそのトレイに載せてやった。「ありがとう、ケン兄ちゃん。恩に着るよ。」そして先に階段を駆け上がっていった。
健太郎は振り向いてミカに視線を投げた。「本当に楽しい旅行だったよ、ミカ先生。いろいろ教えてくれてありがとうね。」そして龍の後を追って階段を上がっていった。
「『ミカ先生』?なんだよ、健太郎のヤツ。なんでミカのことをこんなとこで『先生』なんて呼ぶんだ?」ケンジが怪訝な顔で健太郎の後ろ姿を見送りながら言った。
「あたしがいろいろ教えてやったから・・・。あいつにさ。」
「あっちでも水泳教室やってたのか?」
「教えたいことがいっぱいあったからね。」
「そうかー?ミカ姉、ずっと酔っ払ってて、あいつに水泳指導してるとこなんか、見いへんかったけどな。」
「そ、それはあんたが見てなかっただけで・・・。」
「それに健太郎はあっちにいる間、ミカ姉さんのことを『先生』なんて呼ぶとこ、見なかったけど・・。」マユミが言った。
「何か、怪しいなー。」ケンジが横目でミカを見た。ミカは少し赤くなっていた。「珍しく赤くなってたりするし・・・・。」
「な、なに勘ぐってんだ!何にもないって、ほんとに。」ミカはますます赤くなった。
「何かあったんやな。」ケネスがマユミに囁いた。「あったんだね。」マユミも囁いた。
「白状しろ。」ケンジが迫った。
「そ、そう言えば、あの写真どうした?あ、あのケンジのかっこいい写真。」ミカが慌てていった。
「話をそらそうとしとる。」
「ますます怪しいね。」
「『隠し事をする怪しげな行動』、『健太郎の先生呼ばわり』、『教えたいことがいっぱい』、だいたい予想はつくな。」ケンジが腕組みをして言った。「お前、健太郎を誘惑したな?」
「ちょ、ちょっと待て!」
「吐くんや、ミカ姉。」
「わ、わかった。確かにあたしと健太郎の間に何かあったことは確かだ。だけど、あたしは健太郎と、それを秘密にするって約束した。だから勘弁してくれ。」
「ふむ・・・・。」ケンジは頷いた。「秘密にするって約束したのなら、仕方ない。」
「健太郎に免じて、ミカ姉の名誉を守ったるわ。」
「あ、ありがたい・・・・。」
しかし、ここまでくれば二人に何があったのかは一目瞭然だった。それでもケンジたちはミカに今はコトの詳細をそれ以上は訊かないことにした。