ミカの暴走-2
ビーチが見下ろせるレストランに7人は入った。奥に通された7人は広いテーブルを囲んで座った。彼らの他にもたくさんの観光客がディナーを楽しんでいた。時々ケンジたちを見て、小さく手を振る客もいる。
「きっと、昼間のあれを見ててくれたんだな。」ケンジが言った。
「わいら、一気に有名人になってしもたな。」
周りでウェイターが忙しく運んでいる料理は、子どもたち、特に龍には初めてのものばかりだった。彼はそれを見回しながらため息をついた。「こ、こんな贅沢な食事、ばちがあたりそうだよ・・・・。」
「日本に帰ったら、しばらくは梅干し生活だからな。覚悟しとけ。」ミカが言った。
「ええっ?」龍が顔を上げた。
「当たり前だ。うちがこんなこといつもできるような金持ちじゃないってこと、お前も知ってるはずだぞ。」
「ほたら、乾杯といこか。」
「そうだな。みんな飲み物はそろったか?」
「うん。」「大丈夫だよ。」
ミカが立ち上がり、隣同士に座っているケンジとマユミを見て言った。「ケンジとマユミのスイートデーに、」そしてケネスに向き直った。「我々の新たなシーンの幕開けに、」ケネスはひきつった笑いを浮かべた。ケンジとマユミは同じようにくすっと笑った。「乾杯っ!」ミカが高々とグラスをかかげた。
「かんぱーい!」
「おい、ミカ、」ケンジが右隣のミカに声を掛けた。「新たなシーンについて、ケニーには同意を得たのか?」
「ううん。まだ。だけど、これからよ。」ミカはケネスに声を掛けた。「ケネス、こっちに来なよ。」ミカは自分の右側の空いた椅子の座面をぱんぱんと叩いた。健太郎がちらりと目を上げてその様子を見た。
「よしっ!飲め。」ミカは新しいグラスに赤ワインをなみなみとついでケネスに勧めた。
「すんまへん、ミカ姉、いただきます。」
「そうだ。いただけ。」
「母さん、酔ってる?」龍が少しあきれ顔で言った。
「あたしはいつも酔ってるようなもんだ。特にこっちに来てからはずっと。」
「いっつも手に缶ビール持ってたからなー。」ケンジが言った。
「よしっ!もっと飲めっ!」ミカがケネスのグラスにワインをつぎ足した。
「ミカ姉、わいを酔わせてどうする気や?」
「ぎくっ!」
「『ぎくっ!』?何か企みでもあんのんか?」
「我々の新たなシーンの・・・、」
「もうええ。わかったっちゅうねん。つき合ったるから。あんまり無理せんといてんか。」そしてケネスはマユミに目を向けた。「ほんまにええんか?マーユ。」
マユミは黙って微笑みながらうなづいた。