出発-3
ミカとケネスはテーブルを挟んで向かい合っていた。ミカの前には生ビールのジョッキが置いてある。
「ミカ姉、今から7時間も飛行機に乗らなあかんねんで?その目の前のものは一体なんやねんな。」
「あんたも飲む?ケネス。」
「いや、遠慮しとくわ。」
ミカはさっと手を上げて、遠くにいた店員に声を張り上げた。「生、もう一杯持って来て。」
「ちょ、ちょっとミカ姉!」
すぐに同じ物が運ばれて来た。ミカは自分のジョッキを持ち上げた。「乾杯!」
ケネスもあわてて目の前に置かれたジョッキを持った。「か、乾杯。」
「って、何に乾杯なんや?」
「我々の新たなシーンの始まりよ。」
「新たなシーン?」
「そう。」
「何やの、それ。」
「あたし、向こうでやってみたいことがあるんだよね。」ミカはケネスに身を乗り出した。
「やってみたいこと?」ケネスはジョッキを口に運んだ。
「そう。夫婦交換。」
ぶ〜っ!ケネスはビールを噴き出した。そして慌てて口の周りとテーブルをおしぼりで拭き始めた。「な、なんやて?!」
「っつってもさ、もともとケンジとマユミは今日愛し合うわけだし、残ったあたしたちもせっかくだから愛し合ってみたらどうかと。」
「ミっ、ミっ、ミカ姉、本気でそないなこと考えてんのんか?」
「うん。本気。声が大きいよ、ケネス。」
ケネスは真っ赤になって言った。「そ、そんな相談するためにわいをここに連れ込んだんかいな。」
「そうよ。で、どうなの?」
「わ、わ、わいは、その、ミカ姉が、そっ、そっ、その気なら、あの、あのあのあの・・・。」
「それにさ、あたしとあんたがそういう関係になれば、ケンジたちもこれから気兼ねなく、あたしたちに気遣いなく会える、ってことでしょ?一石二鳥じゃん。誰も傷つかないし、みんなで幸せになれる。どう?」
「ど、どう、って振られてもやな・・・・。」ケネスはもじもじして言葉を濁した。
ミカはテーブルをばん!と叩いて立ち上がった。「はっきりしないオトコねっ!あたしを抱きたいの?抱きたくないのっ?!」その声に遠くのテーブルにいたカップルと、水を運んでいた若い女性の店員が振り向いた。
「しーっ!ミ、ミカ姉、声が大きい、声がっ!」