第4章-3
綺麗な女だった、座って落ち着いてから私はその女に聞いた。
「ここは初めてですか?」
「あ、いえ・・前にお友達と何回か来たことがあります、それで・・」
「それで?」
「はい、ここが気に入っています、落ち着けますので、
それで今日は、ちょっと仕事のことでモヤモヤしていまして」
そう言いながら、女はマスターがシェーカーを振って作ったカクテルを喉に運んだ。
私は思わずその女の顔を見ていた。
「あら、恥ずかしいですわ、そんなにじっと見つめられて・・」
「あ、いや、どうも・・それで仕事でしたね、厭なこと」
「はい、そんな気持ちを忘れたいので、こうして、でも初めてなんです」
「え?何が?」
「いつもは、家で・・・でも、一人ですし、たまに今日は・・」
「なるほど、気分を紛らわしたいんですよね」
「はい」
女は始めて私に顔を向けて寂しそうに笑った。
美しい女だった、その笑った笑顔がとても良い。
私は、その瞬間、この女を抱きたいと思った、しかし、あくまでそう感じたのだが。
少し酔いが回ってきたのか、女の頬が赤く染まっていた。
「厭なことは誰でもありますよ、でもそうやって人は生きています」
「あ、はい・・」
意外と無意識に出た気障な私の言葉に、女は目を丸め、私の言葉に耳を傾けた。
「私は、しがない男ですが、それでも厭なことがあると、私もこうしてね」
「そうですよね、でも・・男の人でもそういうことあるんですか?」
女は私に興味を持ったらしい、少し酔いが廻った眼で私を見つめる。
「ありますよ、人間だしね」
私が少し笑うと、女はそれに吊られて笑った。
歯が白く綺麗な女で、笑顔が可愛い。
「ところで、聞いて良いですか、どんな悩みですが、よろしければ」
「あ、はい・・実は私は学校の仕事をしているんですが、今は色々と・・」
そういって、ぽつぽつと悩みを打ち明けた、
その内容は学校でのいじめの問題、
自分が最近、教頭になったこと、教師との関係などを話した。
この若さで教頭という任務を任されているが、
実際には、そのストレスは相当あるらしい、
私は黙って聞いていた。
こういう話は、じっくり聞いてやり、適当に相づちを打ちながら、
慰みの言葉を掛ければいいのだ。