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満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)
【ファンタジー 官能小説】

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暗灰色の狂狼-4

――標高の高いぶんだけ強い日光が、深く積もった白銀の雪を、キラキラ輝かせている。
 失ったはずの故郷に、ルーディは立っていた。
 身体は狼の姿で四つの足は懐かしい雪の感触をしっかり踏みしめている。
 数歩の距離で、黒い狼がルーディをじっと見つめている。その目からは、陰惨な影は抜け落ちていた。 ルーディの知っていた頃の、自慢の兄だった。

 他には誰もいない。
 澄んだ冷たい空気と、風が峡谷を吹き抜ける音だけが、辺りに満ちている。
 低い声をあげて、ヴァリオが飛び掛ってきた。憎しみのこもった死闘じゃない。いつもやっていた、兄弟狼同士の親愛をこめたじゃれあいだ。
 しばらく雪の中を転げ周り、子狼に戻ったようにはしゃぎまわる。

 やっぱりヴァリオは強い。
 雪にまみれ、ルーディは息を切らしながら仰向けになって降参のポーズを示した。

「なんだルーディ。こんなにすぐ諦めるなんか、お前らしくないじゃないか」

 のしかかってニヤニヤ笑ってる兄を見たら、なぜだか涙があふれてきた。

「……一族が、好きだったんだ」

 みんなみんな大好きだった。人狼に生まれた事に誇りを持っていた。
 だからこそ、滅んで欲しくなかった。

 けど、俺は無力だった。誰も救えず、かえって滅亡の加速を早めただけだった。

 ヴァリオは黙ってルーディの上から退くと、顔を天にむけて鋭い咆哮をあげた。
 フッ……と、空の色が変わる。どこまでも澄み渡った青から、満天の星空へ。
 真円の月が、神々しい銀色の光を降り注ぐ。
 人狼の血を燃えたぎらせ、どこまでも魅惑する満月へ応えるように、あちこちから遠吠えのコーラスが始まった。
 姿は見えないが、よく知った声たちだった。一族の皆……父さんと母さんの声も聞えた……。
 低く高く、時に短く時に長く。綺想曲のように奏でられる、人狼たちのコーラス。

「お前は一族を追放された。それは覆せない」

 厳しい声で、漆黒の狼が宣告する。

「我らを見くびるな。どんなに絶望的だろうと、人狼は簡単に滅びはしない。いつか、新しい部族と……お前の子孫たちと戦う事もあるだろう」

 金色の鋭い眼差しが、ルーディへ……人と交わる道を選んだ、新たなる人狼族の族長へ、宣戦布告をした。

「ヴァリオ兄さん……」

 強い風が吹いた。
 雪が舞い上がり、ヴァリオの姿は白銀の世界へ消えていく。遠吠えのコーラスも止んだ。
 追いかけようと、夢中で白銀の風へ手を突っ込んでかき分けた……。




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