投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)
【ファンタジー 官能小説】

満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)の最初へ 満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ) 36 満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ) 38 満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)の最後へ

人狼族の裏切り者(注意、性描写あり)-9

「なぁルーディ。『友人をつくる。』というささやかな事が、王にとっては案外難しいのだな」

 ある年、ヴェルナーがふとそんな事を言った。
 鎮静剤の研究が煮詰まっていたルーディを、やや強引に魚釣りへ連れ出した時のことだった。

 まだ寒い季節だったが天気は良く、冷たい水の中で魚達が元気に泳いでいた。
 なかなか餌に喰いつかない魚たちに、いっそ狼になって直に取ってしまおうかと思いつつ、ルーディは尋ねた。

「ふぅん。他の国ならともかく、フロッケンベルクは特にそうだろうな。ここの民にとっちゃ、王は神さまも同然だし。……なんかあったのか?」
「神さま、か……」

 ヴェルナーが苦笑した。

「実は今朝、昔の友人に会ったんだ。学生時代は机を並べて勉強し、何でも話し合った相手だ。彼の父が亡くなり爵位を継いだと挨拶に来てね。……子どもの時とはいえ、王を友人扱いなどして申し訳なかったと、彼に謝罪されたよ」
「……へぇ。忠実な家臣ってわけだ」
「ああ。王と友人は兼業できないらしい。まぁ、今に始まった事ではないのだが……」

 ぼんやり釣り糸を眺めながら、フロッケンベルクの若い王は寂しげに呟く。
 チラリと、その横顔にルーディは視線を走らせた。
 
 ヴェルナー王はすでに、歴代の王で最高の名君として国民から認められている。
 領土をむやみに増やしたりはしないが、外交も内政も見事にこなし、どんな飢饉の年にも一人の餓死者もださなかった。
 だが親しかった友人たちは、ヴェルナーに好意を存続させても、彼が立派な王になればなるほど、どこか一線をおいて接するようになってしまった。

 大陸全土に知れ渡っている有名な事実だが、フロッケンベルクの国民達は、国王への忠誠心が忠犬のごとく厚い。
 よってフロッケンベルク人を嘲る時は『北国の狗』となるくらいだ。
 極寒の不毛な領土で、国民に生活の糧を与え、仕事を与えるのが、フロッケンベルク王の役目だった。
 彼らに恩恵を与える引き換えに忠誠心を受け、それを次の糧へと繋げる。 
 国王はいわば全国民の養い親であり、要となる柱で、命綱だ。
 そんな守護神にも等しいと崇める主君を、同時に対等な友人として見れる器用な人間は、残念ながらいないようだ。

「仕方のない話だな。裏返せば、民たちが王家に抱く忠誠心の厚さなのだから……喜ばしいと受けるべきだろう」

 自身に言い聞かせるよう呟いたヴェルナーに、思いっきり川の水を跳ね飛ばしてやった。

「ぎゃぁ!何をするか!冷たいじゃないかっ!!」
「ニヒヒ。俺は人狼だぜ?フロッケンベルクと共存してるだけで、ヴェルナーを神さまだなんて思わないからな。せっかく息抜きに来てるのに、隣でしけたツラなんかしてれば、悪戯くらいするさ」
「……ほぉー。なるほど」

 ヴェルナーがニヤリと笑い、ひょいと手を伸ばす。
 活きの良い釣れたての魚が、ルーディの襟首から放り込まれた。

「ふぎゃぁぁぁ!!??」

 背中でビチビチのたくる気味悪い感触に、ルーディは飛び上がって悲鳴をあげる。

「わーっはっはっは!!狼というより、猫みたいな悲鳴だな」
「にぎゃぁぁ!いいから早く取ってくれぇぇ!!」

 時にケンカもして、仲直りし、かけがえない時が積み重なっていく。
 十年以上の歳月をかけ、効果が高く日持ちする鎮静剤が出来たときも、彼はルーディ以上に喜んでくれた。



満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)の最初へ 満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ) 36 満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ) 38 満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前