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満月綺想曲(ルナ・リェーナ・カプリチオ)
【ファンタジー 官能小説】

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人狼族の裏切り者(注意、性描写あり)-10

 十年以上も姿をくらまし、突然戻ってきたルーディを、父親をはじめ一族は驚きと警戒を持って眺めた。
 鎮静剤の効能から、フロッケンベルクの意向まで全てを話すと、長年の宿敵に一族を売るのかと、大部分から非難が相次いだ。
 しかし、ほんの少数だが興味を示した者もいた。
『発作』を怖れる者はちゃんといたのだ。ただ、他にあわせて平気な振りをしていたのだろう。

 渋る父に、必死で訴えた。

「フロッケンベルクと協力すれば、人狼は未来を得られる!発作さえ起こさなければ、母さんも死ななくて済んだじゃないか!!」

 族長としての責務から、父は発作を起した母を絶命させ、涙の一つも流さなかった。
 しかし母は最高の“つがい”だったと、常々言っており、太い首には今も、皮ひもを通した母の牙が大切に下げられていた。

「裏切り者と思うなら、俺を処刑しても良い。でも、この鎮静剤だけは使ってくれ!これ以上、人狼を減らしたくないんだ!」

 その言葉に、父は心を動かされたようだった。
 一族を振り返った瞬間、漆黒の影が父の喉に深く喰らいついた。
 狼の姿をとった、長兄のヴァリオだった。
 ヴァリオは漆黒の毛色をした人狼で、涼やかな顔立ちはどちらかといえば母親似だった。しかし、懐が広く豪胆で思慮深いところは、父親に一番似ていた。
 だが、ルーディが里を離れていた間に、ヴァリオは幾分か変わっていたらしい。
 陰惨な残忍さが、その顔に影を落としていた。

 ヴァリオは父の頚骨を噛む顎に力を加え、絶命させた。
 族長の交代した瞬間だった。

「ルーディ、貴様の身勝手な価値観を、我らに押し付けるな」

 腹の低に響く重低音で、ヴァリオはルーディに唸り声を向ける。
 そしてルーディが反論する前に一族の皆に吼えた。

「命惜しさに狼の誇りを忘れ、仇敵の飼い犬に成り下がる気か!」

 空気が一変した。
 先ほどまで興味を示していた者さえも……ルーディに味方する気配は、一瞬で消え去った。

「フロッケンベルクこそが、人狼の数を大幅に減らした悪因だ!俺はすでに何国かの支配者と極秘に話をつけた。“族長として命じる!!”人間どもを支配し、フロッケンベルクを叩き潰せ!!」

 考えてみれば、ルーディとヴァリオは同じだ。二人とも人間と手を組もうと一族に言った人狼。
 しかし、言い方が決定的に違っていたのだ。

 ルーディは人間と『協力』しようと言った。
 ヴァリオは人間を『支配』せよと命じた。

 人狼という種の操り方を、どちらが心得ていたか、言うまでも無かった。

「ルーディはすでに我が弟ではない!一族の誇りすら失った裏切り者だ!!」

 ヴァリオの咆哮に、全員が雄たけびを上げて答える。
 長年、フロッケンベルクに対してくすぶっていた不満の、絶好の捌け口が目の前にあるのだ。
 狼に変化し、ルーディは必死で逃げた。何匹にも深く噛まれ、崖からも落ち、ヴェルナーの元にたどり着いた時には半死半生のありさまだった。

 だが、悲劇はそれに止まらなかった。
 ヴァリオは一族をまとめ上げ、宣言を実行したのだ。
 近隣のいくつかの国を煽り、フロッケンベルクを総攻撃しはじめた。
 このままではルーディが人狼とバレるのも時間の問題で、そうなればフロッケンベルクの人間と同族、両方から狙われる。

 ルーディを逃がすために、ヴェルナーはイスパニラ国での諜報員という仕事をくれた。
 北の山岳を愛する人狼達は、この遠い西の国まで足を伸ばすことはまずない。
 ルーディは旅立ち、その後フロッケンベルクはかなりの被害を受けたが、「姿なき軍師」の指示の元、諸外国をことごとく退ける事に成功した。
 人狼族もほぼ壊滅状態で、住み慣れた山脈を追われたと聞いた。

 バーグレイ商会を通じ、ヴェルナーと手紙のやりとりは今も続いている。
 フロッケンベルクに帰るよう勧められた事もあったが、断ってこの地に住み続けた。

 帰れるはずなどない。
 もう帰るべき場所も、目的も全て失ってしまったのだから。

 それに、ヴァリオの死体が見つからなかったと聞き、兄はきっとまだどこかで生きているという確信があった。

 誰よりも強かった兄が、そう簡単に死ぬはずはない。
 そして生きている以上、ルーディを裏切り者として狙い続けるだろう。
 フロッケンベルクを攻撃したように、ルーディの愛する者も全て皆殺しにしようと、牙を研いでいるはずだ。

 だから、大切な相手はもうこれ以上作らないと決めていたのに……。



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