人狼族の裏切り者(注意、性描写あり)-8
その日から、ルーディはフロッケンベルク王都でヘルマンの家に住み込み、錬金術やその他の知識を叩き込まれた。
これは厳しいものだった。
何しろヘルマンは情け容赦というものを一切しなかったし、ルーディはフロッケンベルク語の会話はともかく、読み書きはだいぶ怪しかったから。
しかし、厳しい事は確かだが、ヘルマンは教え方が大層上手く、一ヶ月で飛躍的にルーディは進歩した。
初めての師は、本当に風変わりな男だった。
学問だけでなく、剣術や魔法……なんと家事まで完璧で、なんでも一人で出来てしまう。
人当たり良く見えるのに、内面は酷く冷酷で、そのクセ変に面倒見は良かったりする。
錬金術は勿論、各種の知識に精通しているのに、立場はしがない下級錬金術師。なのに、王と個人的に親しくしていたり……。
年齢すらよく解らない男だった。
若く見えるが、ときおり非常に歳をとっているようにも見えた。
彼が不老不死の身体を持ち、もう百年以上も生きていると知ったのは、随分後になってからだ。
一ヶ月があっという間に経ち、ヘルマンは遠いシシリーナ国へ旅立った。
家はそのまま使っていいと言われたから、ルーディはヘルマンの家に一人で住み続け、錬金術ギルドでひたすら薬学を学んだ。
その頃には、人狼だとばれない用に生きる術も叩き込まれていたが、もちろん協力者もいた。ヴェルナーだ。
ヘルマンも数年に一度は帰国し、色々な手助けをしてくれたが、ヴェルナーがいなくては、とうの昔に人狼とバレて袋叩きに会っていただろう。
彼は王として多忙な身だったが、時折こっそり抜け出しては、ルーディに会いにきた。
「『お忍び』というのは、古来から庶民の夢でもある。だから、王として民の期待に応えるための義務だ」
とか、わけのわからない理屈をこねていたが、用は堅苦しい宮廷生活の息抜きがしたかったらしい。
ルーディからすれば、ヴェルナーはまったく王らしく思えなかった。
少なくとも人狼の常識では、統治者というものは力で周囲を屈服させる者だ。
しかし、彼は相手が誰であれ、きちんと話をし、互いに一番納得の出来る道を選ぼうとする。
面食らう部分も多かったが、彼にとても好感を抱けた。
ヴェルナーも完璧な善人ではない。
雪に覆われ作物もロクに実らないフロッケンベルクは、他国に傭兵や錬金術師を送り出し、戦によって収益を得る。それで命を繋ぐ。
平和的な農耕で生きる人たちからすれば、極悪非道なやり方だ。
それでも、ヴェルナーは国民の命を繋ぐために、王としての職務を果たす。
時には彼の意向に反する出来事もある。肯定もされれば、一方で非難もされる。
生きるために奪うが、必要以上には奪わない。
それは人狼たちと、とても似通った生き様だった。
歳は離れていたが、いつしか彼と親友になっていた。