41 プラトニック-1
水曜の会社の昼休み、休憩室で定例会が開かれていた。
「ちょっとお茶買ってきます。それから重大発表しますんで」
そう言って1度その場を離れ、紙パックの緑茶を買ってきた。側面に斜めに張り付いているストローを取り出し、銀色の膜を突く。
「で、重大発表とは?」
小野さんが組んだ脚の膝に肘を置き、手のひらに顔を乗せている。イケメンが引き立つ格好だな、と思う。ちなみに小野さんは既婚だ。
「私、離婚することになりました」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ――」
その場にいた男3人は声をそろえて絶叫したので、休憩室にいた他のグループが一気にこちらへ視線を移した。
「ちょ、うるさいから、黙りやがってください、マジで」
顔が赤くなっているのが自分でも分かった。もう、リアクションがデカすぎるんだよ、この3人は。
「え、いつ?」
「相手が受け入れてくれたらすぐにでも」
「じゃぁまだ受け入れてくれないんだ」
「はい。でもこっちも引く気はないんで」
ふーん、と今度は静かに3人同時に頷いた。
「そんで、次の彼氏は?」
さいちゃんの頭をポカッと叩いた
「おらんわ、ボケ。これから男関係をきちんと清算して、ゆっくり考えます」
浅田さんが口を開いた。
「そういや斉藤から、新しい男に告白されたとか聞いたけど」
「さいとォォォォーーっ」
殴りかからん勢いで襟元をグイっと掴むとさいちゃんはヘラヘラ笑いながら「そのままチューして」と言ったので、思いきり頭突きをした。
「告白はされましたけど、その時点で私、人妻やってましたからね。受け取るだけ受け取っておきましたけど」
「偉いな。斉藤も見習って、妹1人に絞れよ」
「そうだよさいちゃん、いい歳なんだからさぁ」
さいちゃんは私より3歳年上だ。そろそろ遊んでばかりいられない年齢になってくる。
「でもねーどの妹もそれぞれいいところがあるんですよ。なかなか1人に絞るのはねぇ。難しいんですよ、浅田さん」
同じだ、と思った。さいちゃんも捨てる事が苦手なんだ。拾うだけ拾って、愛着がわいて、捨てられないんだ。
でもそれって、相手の為にも自分の為にも優しくない。今はそれが分かってきた。
職場に戻る道すがら、並んで歩くさいちゃんの肩をポンと叩いて「一緒だな」と言った。
さいちゃんんは「え、何が?」と不思議そうな顔をしていた。