5 イニングス-2
「駅まで送るよ」という申し出を有難く頂戴して、サトルさんと並んで暗くなった道を歩いた。サトルさんの内面を見る事は出来なかったけど、私は自分の内面を少し知ってもらって満足だった。少し、2人の距離が近くなったような錯覚を起こした。錯覚でもいい。憧れの人とこうして肩を並べて歩いている、その現実だけでも相当お腹がいっぱいなのだ。
帰りは、このあたりに兄が住んでいる事や、このあたりの家賃相場等、割とどうでもいい話に終始した。
「またメールします。ごちそうさまでした」
今回は私がこう言って、さよならをした。
電車に揺られていると、携帯にメールが来た。サトルさんからだ。
『今日は来てくれてありがとう。誰かが家に来て、帰ってしまった後に残る寂しさが嫌いなんだ。帰ってほしくないと思うね。それじゃ』
携帯ごと抱きしめてやろうかと思った。私から見ると、とても大人な男性で、精神的にも強そうで、何でも知っていそうな完全無欠な人に見えるんだが、こういう事、ぽろっとメールに出しちゃうんだな。
可愛い人なんだなぁと思った。
車窓に映る自分のにやけた顔の真ん中、鼻がテカテカしていて「こんな顔で接していたのか――」と悔やんだ。そろそろ「お化粧をする」という知恵をつけたいところだ。
サトルさんは、私にとって「男友達」になるだろうか。今のところは「メル友」の「お兄さん」だ。
恋愛関係に発展することはまずないだろう。私にとってサトルさんは高嶺の花だ。この言葉を女である私が使う事はおかしいかも知れないが、この表現が的確だ。
見た目も、性格も、全てが私の「ストライクゾーン」のど真ん中。私自身が強烈な「ワイルドピッチ」な訳で、どうあがいても彼を自分の物には出来ない。サトルさんの彼女になる事なんてまず無理。ありえない。
彼女になれないなら、女友達ならどうだろう。
こうしてサトルさんの手料理を食べに行く私を、サトルさんはどう捉えているのだろうか?
私は、少なくとも「メル友」から「女友達」になりたい、そう思った。