3 堕ちる-2
「で、どんな人だったの?」
レイちゃんはコーラのプルタブを引いた。プシュッっと音がする。レイちゃんは毎日、昼休みにコーラを1缶飲む。炭酸が極めて苦手な私からすれば、レイちゃんがとても男前に見える。見た目も中身も私より数倍、女の子なんだけど。
「うむ、それがかなりツボな人だったのだよ。見た目は150点。話も面白いし」
「満点超えてるね、それ。ミキちゃん、坊主頭の人好きだもんね。おしゃれだった?」
「かなりオシャレ。1つ1つのアイテムにお金が掛かってそうな人っているじゃん。そんな感じ」
清潔感があって、だけどカジュアルなサトルさんの服装を思い出しながら、烏龍茶をひと口すすった。口の中を細い苦みがすり抜ける。
「ひぇー、ミキちゃん好きそう。いいなぁ、その後、連絡は?」
「夜にメールが来たよ、また遊ぼうって書いてあってホッとしたよ」
「フフフー、楽しみだねー。一目惚れって奴?今後が楽しみだねー」
レイちゃんは含み笑いをしながらゴクリと2回、喉を鳴らしてコーラを飲んだ。
「スカルディのライブに行く話とか、したよ。何かとレイちゃんの名前出しちゃったけど、ごめんねぇ」
1人暮らしをしているレイちゃんの家には、頻繁に泊りに行っている。ユウ夜遊びするために、母に「レイちゃん家に泊まる」と嘘を言った事もしばしばある。レイちゃんはその度にアリバイ工作に協力してくれる。
洋服の趣味、音楽の趣味が合うので自然と一緒にいる時間が長くなった友達だ。女子特有の「グループ」を嫌う私は、いくつかのグループから時々、自分と気が合いそうな友達を「引き抜き」する。その1人がレイちゃんだ。性格は女らしく、私とは正反対だが、相補するような関係なのだろうか、とても安心できる。もう1人はタキ。タキは私と似た性格なので、一緒にいて飽きないし、己の汚い部分をさらけ出して話ができる貴重な存在だ。
来月のスカルディのライブは、レイちゃんの高校時代の友達がチケットを余分に取ってくれたものだ。
サトルさんはスカルディ、聴くのかなぁ――。
午後の講義に使う教科書をパタパタと重ねながら、そんな事を思った。