恋しくてたまらない-5
「あいつが何言ったのか知らないけど、俺は誰とも結婚なんてしない。
俺が好きなのは畑本だけだよ。」
言葉が頭の中で回る。
理解できているのに、夢みたいで実感が湧かなかった。
「…私、先生が電話してるところ、見たんです。
いつもの先生じゃなかった。もっと知りたくなった。
相手が、菜美子さんが羨ましかったんです。」
先生の指が、頬に触れる。
親指でそっと涙を拭ってくれた。
「私、心が汚いんです。
先生を想うと、嫉妬したり独占したくなったりもするの。
こんな私でも、いいんですか?」
私が尋ねると、先生は笑った。
そうしてゆっくり顔が近づいて、優しいキスをした。
長い長いキスをして、唇が離れると「俺もそうだから」と言った。
「でも…」
「ん?」
「さっき、菜美子さんが来ていたんじゃ…」
「ああ、約束していたから。」
「約束?」
私が先生を見ると、先生は昔を思い出すように遠い目をした。
「俺に好きな子ができるまでは絶対に離れないって、昔、言われたんだ。」
「そう、なんですか…」
何と言っていいのか分からず下を向く。
先生は体を離して、私の両手を握って目を合わせた。
「頭で考えるより先に畑本に会いたくなって、抱きしめたくなって、好きなんだなって実感したんだ。」
「あの…いつから好きになってくれたんですか?」
「それが、分からないんだ。」
「はあ。」
先生は苦笑する。
「最初畑本のことを菜美子と重ねて見てたんだ。
菜美子も昔、分かってる問題をわざわざ聞きに来ていたから。
今思うと自意識過剰だったけど、もしかして畑本も俺に気があるんじゃないかって、怖くなった。」
「最初は、そんなつもりなかったんですけど…」
私はぼそぼそと言い訳をする。
「俺だって、全然そんな気なかった。
だけど、来てもいいですか、って言われて、来い、って言ってた。」
先生はそのままおでこをくっつけて目を伏せた。
長いまつげに影がかかる。
「畑本は、少し菜美子と似てるんだ。」
「そう、なんですか?」
「危なっかしいところとか、そのくせ頑固なところとか、言葉が少なくて人を真っ直ぐ見るところとか。」
「あっ…」
だから竹田君は、悲しそうな顔で私を見たんだ。
私にはどこが似てるのかさっぱりわからないけど、似てるところがあるなら、そうなのかもしれない。
先生は私の手を引いて椅子に座る。
片手は握ったまま、今度は隣に座った。