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富子淫情
【歴史物 官能小説】

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富子淫情-10

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―――別荘の離れ・富子の寝間



その夜は何故か蒸し暑く、
桂川からの涼しい風も殆ど寝間に入ってこなかった。


寝床の上で横になっていた富子はあまりの寝苦しさに目を覚ますと
おもむろに立ち上がり、三方の障子を全て開け放つ。




「ふぅぅっ・・・・」


微かに冷たい外気に触れて
富子は思わず息を吐いていた。
寝床に入る前に入浴したことが意味をなさないほどの熱気だが、
僅かなそよ風を感じるだけでも幾らか気分は楽になる。





(・・・・あれは)


この時何気に庭に目を落としていた富子は、
庭で一番大きい庭石に腰を下ろして こちらに背を向ける人物の存在に気づいた。


「もしや・・・右近殿か?」


「 !!! 」


不意に声をかけられたせいか、その人影はピクリと
身体を揺らせ
ゆっくりと富子の方に顔を向けた。

雲に覆われかけた三日月の光と彼女の目が闇夜になれたせいで、その人物が富子の予想通りの人物であることが分かる。



「こんな夜更けに何をされているのです、こちらに来てくだされ。」



富子の言葉に 右近は一瞬躊躇したが、
やがて意を決したのか素早く腰を上げると
音もなく庭先を走り抜けて
次の瞬間には
もう富子が立つ縁台の庇の前にまで来ていた。



「御台所様のお眠りを妨げてしまったようで申し訳ございません。何卒ご容赦いただきたく・・・・」


「良いのですよ、私も暑さで眠れていなかったのだから。

・・・それに右近殿。今の私はお忍びの身。私を呼ぶ時は何卒“御台所"ではなく富子と呼んでください」


「はっ、富子様・・・・」


恐縮しながら片膝をつく右近に対して微笑みながら、富子はそのまま縁台に腰を下ろし、手すりに身をもたれかけさせた。





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