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秘め事の系譜 シホ
【同性愛♀ 官能小説】

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恋人との日常-2

 その時、シホの携帯電話にメールが来た。サチコからだ。
【今、おヒマ? 電話してもいいかしら?】
 シホもちょうどサチコと話しをしたいと思っていたところだ。メールには返信せず、自分からサチコに電話をかけた。
 相手は電話にすぐ出たが、返答が聞こえてくるまでには間が合った。背後の話し声や笑い声が騒がしく、随分と賑やかな場所にいるようだ。
『……ハロー、マイハニー』
「酔ってるの? 日本語でOKよ。どうしたの?」
『ゴメン、少しお酒入ってる』
「少し?」
 シホは時計を見た。ちょうど日付が変わったところだ。
「時間的に少しなわけないでしょ? 後ろが騒がしいし」
『バレたか。楽団の連中と飲んでるところよ。それで、来月のことなんだけどね。ヨーロッパに演奏旅行が決まったの。一緒にどうかと思って』
「ヨーロッパ?」
『スイス、フランス、ドイツにベルギー』
「また、随分と回るのね」
『移動距離だけなら東京、名古屋、大阪、福岡ってところよ。大した距離じゃないわ』
「市内ですらあんまり移動しない身としては、十分に大変そうなんだけど」
 普段から国内でも様々な場所で演奏しているサチコにとっては、実際に大した距離ではないのだろう。この感覚は、仕事で頻繁に海外へ出かけている夫の方が理解しやすいかもしれない。
『ウチの敏腕マネージャーが、無茶なスケジュールで仕事を取ってくるからねえ』
 敏腕という部分に単純でない響きを感じて、シホは思わず微笑んだ。
 サチコは弦楽四重奏の楽団に所属しており、パートはバイオリンだ。以前は国内でそこそこ売れており、海外でもたまに大手の楽団にゲストとして参加することもあった。しかし、数年前に海外の大作映画でメインテーマを演奏してから一気に有名になった為、活動場所も海外が多くなり、時々シホも演奏旅行に付いて行ったりしている。
「来月のいつ頃?」
『上旬に一週間くらいよ』
「むー、残念。ウチのヒトも買い付けだわ。レイナを一人にするわけにいかないでしょ?」
『レイナちゃんも一緒に連れてくれば?』
「学校をサボるなんてダメよ。学校にはキチンと行かないと」
『ハイハイ、その辺、シホって良いママさんよね。ホント、レイナちゃんは幸せだわ』
「良い母親ってのはどうかしらね……」
『どうしたのよ?』
「今日ね、レイナが学園の先輩にキスされたんですって」
 レイナが鈴城女子学園という、由緒正しい乙女の花園に通っているのはサチコも承知している。サチコ自身はそこの卒業生というわけではないが、どんな学園なのかはシホから聞いて知っていた。
『あら、オメデト。レイナちゃんにもいい人が出来たのね』
「まだこれからって感じみたいだけど……。でもね、レイナにいい人が出来たって聞いたとき、素直に祝福したいと思うのと同時に、少し嫉妬しちゃったのよ。その学園の先輩って娘に」
『それって……ええと、エディプス・コンプレックスだったかしら? エレクトラ・コンプレックス? それともアグリッピナだったっけ? 子供に過剰な愛情を抱いちゃうヤツ』
「アタシが子供離れしてないってだけよ。病気みたいな言い方しないでちょうだい」
『ビョーキじゃない。実の娘に欲情するなんて』
「まーね。やっぱり病気よね」
『どうせ、深刻に考えてるわけじゃないんでしょ? いつものあなたみたいに、したいことは自由にすれば?』
「フフ、そうね。そうするわ」
『ま、おかげでコッチは離婚することになったんだけど』
「……後悔してるの?」
『それ、あなたがしていい質問じゃないわよ』
「あ……、ゴメン……」
『いいわよ。旦那とは離婚して別居してるってだけで、他はなんにも変わっていないわ。今でも楽団のマネージャーやってるんだし。代わる? 隣で飲んでるけど』
「やめとくわ。よろしく言っといて」
『りょーかい。明日、ジムに来るんでしょ?』
「そのつもりよ」
『それじゃ、明日ね。おやすみ』
「はい、おやすみ」

「おはよう、ママ」
「はい、おはよう」
 翌日の朝、スッキリとした表情でレイナがダイニングに入ってきた。心なしか、表情がいつもの五割増で明るい気がする。遠足当日の朝のような雰囲気だ。
 洗面台は二階にもあるので、レイナが階下に下りてくるのは身支度をすべて整えてからである。ブラウスにブレザー、チェックのスカートにサテン生地のリボン。制服の身だしなみをキチンとしたレイナは、母親の贔屓目を差し引いても十分に可愛らしい。リボンが少し曲がっているのが気になるくらいか。
「よく眠れたみたいね。なんだかいい笑顔」
「ん、あんまり覚えてないんだけど、いい夢が見れたみたい」
 トーストを二枚、ハムエッグにサラダ、コーンスープと、アメリカンな朝食をゆっくりと食べ、食後の紅茶を飲み干したあたりでちょうど家を出る時間となった。普段と変わらない、これが篠崎家の朝の風景だ。一年の四分の三はこれにシホの夫が加わる。
「それじゃ、ママ、行ってきます」
 レイナがお弁当箱を片手に玄関に向かったので、シホは娘を玄関まで見送りに出た。普段はキッチンから挨拶を送るだけなのだが。
「リボンが曲がってるわよ」
「ん……、ありがと、ママ」
 されるがままの姿勢で立っているレイナの胸元のリボンを直すと、シホはそのまま流れるように自然な動作で娘の唇にキスをした。
「! マ、ママ?」
「行ってらっしゃいのキスよ」
「いい、行ってきます……」
 さっきまでシャキッとしていたレイナだったが、顔が一気に赤らんだ。そして、フラフラと怪しい足取りでドアノブに手を掛けると、倒れこむようにして出て行った。


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