獲物はすぐそこに-1
(注:アフリカツイン、KLX250、CRF250等の単語はバイクの種類)
「すげえな、アフリカツインがあんな岩場で遊んでる!あいつ、バイク壊したいのか」
「あはは、あっちじゃでっかいハーレーがさ、枝でがりがりボディ引っ掻きながら林道突っ切ってたよ。このレースに来るやつらはみんないかれてるよな。まあ、だから面白いんだけど」
斎藤とトオルがはしゃいだような声をあげ、自分たちも手袋をはめ直し、凄まじいエンジン音と共に我さきにと急斜面の頂上を目指して駆け上がって行った。灰色の空の下、土煙が舞い上がる。先に斜面の中腹まで上がったのは斎藤のバイクは明るいライムグリーンのKLX250。そのあとをトオルの白を基調としたCRF250が追いかける。
マミは両手を組んで祈るような視線をトオルに向ける。今日はただの練習なのに、大げさなんだから。マミの様子を横目で見ながら、みずきはひとりイライラしながら唇を噛んだ。最近ではマミのやることなすこと、すべてが気に食わない。トオルを見つめる熱のこもった視線も、みずきや大塚を見るときの怯えたような顔も、職場での動きも。神経に障る。だから余計に辛くあたってしまう。
「マミ、わたしたちも行くわよ」
「あ、うん」
みずきは久しぶりに手入れをした自身のバイク、セロー250にまたがってギアを蹴りこみ、アクセルを思い切り開けた。ミラー越しに後ろを確認すると、同じ車種に乗っているはずのマミがのろのろと後をついてくる。もう、ぐずぐずと遅いんだから。ぱらぱらと降り始めた雨がヘルメットのシールドに当たって、透明の水玉模様を作り始めた。
今日は土曜日。いよいよレースが翌日に迫り、出場するメンバーは整備や練習に余念が無い。大塚が率いる斎藤やみずきたちの面々も、今朝は早くから現地に集合してコースの下見と練習に励んでいた。