太一_はじまりの話-1
自分がモテるタイプだと自覚したのは中学に入ってからだった。
姉が二人いるからか、女子の扱いには慣れていた。周りには俺はなつっこく見えるらしく、プラス人見知りしない性格だから、年上年下関わらず友人も多かった。容姿は…イイ方、ならしい。そんな背景が、女子にチヤホヤされる要因なのかもしれない。
学業もスポーツも成績は良い方だったし、自分というものにそれなりに満足していた。だから。
―――俗に思春期なんて言われるお年頃のあの時あのタイミングで朱里に出会ってよかったと思っている。出会わなければ、自分はいまよりも向上心なく“それなり”のまま生きていたかもしれない。
……なんつって。わかんねーけどね。
『相田サン?俺、渡邊太一っつーの。よろしくねー。』
「こちらこそ。ドーモ。」
春。高ニのクラス編成で、俺は朱里の存在を知ることとなる。
渡邊太一と相田朱里。うちの高校は定期テストと新学期のみ出席番号順に座るよう定められていて、俺と朱里は席が前後だった。そんなフツーの出会い。
朱里は、なんていうか…女子っぽくない、という印象だった。
ぼっちではない。むしろ、端整な顔立ちで落ち着いた印象の朱里をグループに入れようとしている“女子っぽい”女子は多く、お近づきになりたい様子で朱里は頻繁に話しかけられていた。
「相田さん、クラスで懇親会やるんだけど相田さんも行かない?」
「相田さん、私たち放課後マック行くんだけど、一緒にどう?」
「相田さん」
「相田さァん」
だが朱里は誰にも媚びずどこにも属さず、決して群れようとしなかった。
「んー…ごめん!でも誘ってくれてありがとね」
話しかけられれば誰とでも分け隔てなく笑顔で接するが、一歩下がったところから物を見ている、というか。
口角を少しだけ上げる彼女の笑顔はとてもきれいだと思った。同世代にそんな風に思ったのは初めてだ。だけど朱里の半径一メートルには白いチョークで円が描かれていて、その線の中には誰も踏み込めない絶対の領域があるように感じた。
もちろん俺も線引きされている訳で。これまで老若男女誰からも慕われてきた俺としては、そんな風に接せられるのは初めての経験で。