太一_はじまりの話-2
(こんな女子もいるんだ…)
“誰かと群れなきゃ生きていけない”“成功も失敗も必ず一緒”、というのが女子の絶対的イメージだった俺には、朱里の行動は意外そのものだった。
興味が湧いた。そのラインに踏み込んでみたくなった。
誰にでも同じ冷静な笑みを、崩してやりたくなったんだ。
『相田、問3の答えどうなった?』
『悪ィ、シャー芯忘れた。一本分けてもらえる?』
『相田』
それからというもの俺は何かと後ろを振り返り、朱里に絡んだ。煙たがれない程度に、あくまで自然に。
プリントを後ろの席にまわすのが、密かに俺の好きな瞬間だった。顎に手をつきうつむき加減の長いまつ毛が、後ろを振り返った俺に気づいて上を向く。きちんと目を合わせてから口角を少しだけ上げてどうも、と言う仕草が、何だかやけに色っぽい。
朱里が少しずつ心を開いてくれるのは、それはもう嬉しかった。
「おはよ、渡邊くん」朱里から声をかけてくれた時。
「渡邊くんて朝いっつもiPod使ってるよね。何聴いてるの?」俺に興味を示した時。
「これ、うちの猫。めんこいでしょ。…えっ、渡邊くん犬飼ってるの!?見たい!」意外と動物好きだと知った時。
「太一。だらしない。」呼び方が“渡邊くん”から“太一”に変わった時。
「っはは!ばーか!」口ぐせが同じになった時。
語弊があるかもしれないが、ゲームの攻略をしていっているような感覚で楽しかった。だから、その興味本位がいつから恋愛感情になったのかはわからない。多分きっかけなんてなかった。それくらい自然に、気持ちが育っていったんだと思う。