飼育部屋にて-9
「そんなときに岡田さんに会った。あんな場所の土地を買うなんて尋常じゃないし、うさんくさい雰囲気があったからな。しばらく子飼いの調査所に見張らせておいたら、あっさり尻尾を出した。変だけどな、初めて仲間に会ったような気がした」
「岡田さんとは……仲良し、なのね」
「いや、ちょっと歪んじゃいるが、ビジネス上のパートナーってとこか。お互いに腹の探り合いは欠かさない……ちょっとしゃべり過ぎたな。これ以上は企業秘密だ」
「もっと、知りたいわ。あなたのこと」
エリナが山本の全身を彩る刺青の理由を尋ねようとしたとき、岡田が上機嫌で戻ってきた。山本の腕の中に体を預けるエリナの姿を見て、脱力したようにため息をつく。
「ちょっと目を離すと君はもう……さっき可愛がってあげたばかりじゃないか」
「だって、いまはこの場所が欲しいの」
エリナが愛しげに山本の胸に頬ずりしてみせると、男たちふたりは顔を見合わせて肩をすくめた。山本がやんわりとエリナを押しのけて立ち上がる。
「さあ、もうこんな時間だ」
テーブルの上に置かれた時計が示す時刻は午後4時半。岡田が車に戻るようにエリナを促した。
「宿泊場所まで送って行くよ。あの場所ならここから30分程度かな……僕はみんなに何といって紹介してもらえるんだい?」
「そうね、親戚の優しいおじ様でどうかしら」
優しいおじ様、と繰り返して岡田と山本は腹を抱えて笑った。雨はまだ降り続いている。濡れた砂利道を歩きながら、エリナは斎藤の屈託ない笑顔を思い出して微笑んだ。
(つづく)