飼育部屋にて-3
「相変わらずのスピード狂だなあ。あはは、エリナ、わからない話ばかりで退屈しなかったかい?」
「ええ、大丈夫。山本さんは……どういうひと?」
「どういうひと、か。うーん、そうだなあ……表現が難しいんだけど、簡単に言うなら、僕の『同志』だ」
「ふうん……」
「最初に山本さんに会ったのは、僕があの別荘を探しているときだった。彼はあのあたりの土地を一括して持つ地主でね。税金も馬鹿にならないっていうんで、使い道の無い土地から売りに出していたんだ」
岡田が手に入れた土地は、山本が所有していた土地の中でも誰もが絶対に買い手がつかないと予想していた場所だった。それだけに、そんなところを選り好んで買おうという相手に山本は興味をそそられたようだという。
「僕も、まさか本当の目的を言うわけにはいかないからね。適当にごまかしたつもりだったんだが……ある夜、現場を見られた」
「現場……」
目の前の信号が赤に変わる。とっさに岡田が急ブレーキを踏み、エリナの体は大きく前後に揺さぶられた。たったひとりの歩行者、杖をついた老婆がゆっくりと横断歩道を渡るのを見ながら、岡田は無表情で続けた。
「別荘で女たちに手をかけた後は、死体を始末しなくちゃいけない。これが本当に面倒だったんだ。最初はそのまま、敷地内に穴を深く掘って埋めた。でも野犬が来たりして大変だったよ。だから面倒だけど、バスルームで肉と骨を大型の肉切り包丁でさばいて分離して、肉の部分は細かく刻んでトイレに流して、骨の部分はあの駐車場の奥のあたりに穴を掘って埋めていた」
その日、岡田がさばいた女の肉と骨をそれぞれ袋に詰めて玄関を出たところで、別荘の前に立っていた山本が岡田に声をかけた。
「大変そうですね、手伝いましょうか?ってね。僕はもう心臓が止まりそうになったよ。なにしろ人間だったモノが詰まった袋を両手に持っていたんだから。言い訳なんかできない。一瞬、この男も殺して埋めてしまおうかとも思った。でも、冷静になって考えてみると、僕じゃ山本さんには勝てなかっただろうけどね」
信号が青になる。再び車が動き出す。田畑が連なる平地から、細い山道に入る。峠道を超え、暗いトンネルを抜けてまた別の峠道に差し掛かる。
「結論から言うと、山本さんは僕の犯罪行為を見逃した。というよりも、そういうことが好きなら、一緒に面白いことをやらないか、と持ちかけてきたんだ」
「面白いこと?」
「ああ。山本さん自身も、ちょっと普通ではない性癖を持ち合せていた。世の中にはそういう趣味の人間が無数にいる、そのニーズをうまく拾い上げて商売にしてみないか……そんなふうに言われたと思う。もちろん僕は混乱して、返事ができなかった。翌日、僕の方から山本さんに連絡を取った。いくつかお互いの条件をすり合わせて、僕らはチームを組んだ。彼が本当に何を考えているかなんていうのは、いまでもわからない」