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卒業式の前に
【青春 恋愛小説】

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卒業式の前に-2

 ヒロキは3月から、地元を離れて東京で就職することが決まっている。飛行機で1時間もあれば着くんだから、二度と会えないほどの距離じゃないけれど、もう一緒に帰ったり、ちょっとした空き時間にお茶を飲みながら冗談を言い合ったりできないんだなあって。

 はあ。

 友達には、そんなに好きなら付き合っちゃえばいいじゃない、なんて言われるけれど、別にわたし、ヒロキのことなんか全然好きじゃないんだもの。あんなやつ、全然、ほんとに男って感じしないし、いつもヨレヨレの服ばっかり着て、すぐ忘れ物しちゃうし、わたしが起こしに行ってあげないと1限の授業は寝坊ばっかりで、ほっとけなくて、だから・・・

 あー、もう、いらいらする。なんでわたしが、ヒロキなんかのことでこんな気持ちにならなくちゃいけないんだろう。
 春休みの午後、大学には人影もまばら。余計に寂しい気持ちになってくる。

 ひとり、校舎前の自販機の前で飲み終わった紙コップを握りつぶす。勢いでそれをゴミ箱に投げ込んでみたけれど、コントロールが悪くて外れちゃう。

「へたくそ!ゴミ、散らかすなよ」

 校舎から出てきたヒロキが、わたしの投げた紙コップを拾い上げてゴミ箱に捨ててくれる。珍しくスーツなんか着ちゃって、なによ、ちょっとカッコいいじゃない。

「お、遅かったじゃない!30分は待ったよ、寒いのにさあ」

「なんだよ、先に帰っててくれていいって言っただろ。世話になった教授のとこに挨拶に行ってたんだ」

 先に帰っていい・・・って、ヒロキはわたしと帰る時間が楽しみじゃないのかな。もうこんな時間、あと何回もあるわけじゃないのに。

「せっかく、待っててあげたのに」

 鼻の奥がツンと痛くなる。なんだろう、急に涙がこぼれそうになって、びっくりして唇を噛んで我慢する。顔を見られたくなくて、ヒロキの前を早足で歩く。

「あはは、それはどうも。怒るなよ、ほら、あの店に寄って帰ろう。おごるからさ」

 追いかけてきたヒロキが、わたしの頭をぽんぽんと叩く。隣に並んだら、いつの間にかわたしのほうがずっと小さくなっていた。中学を卒業するころまではヒロキのほうが背が低くて、いつも馬鹿にしてたのに。


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