忌まわしい記憶-7
「本当にわがままな子だね、エリナ」
そうは言いながらも岡田はきちんとエリナの要求に応えてくれる。岡田のその部分も、ズボンに染みをつくってしまうほど濡れていた。体の中を貫くそれは、たしかに気持ちの良いものだし、それなりに満足できる。でも、エリナはもっとこの先にある快感を知りたいと思った。おそらくは岡田が女たちを手に掛ける瞬間に味わう、狂おしいほどの快感を。今夜、斎藤との時間を過ごすことでもしかしたらそれを味わうことができるかもしれない。そう思うと、エリナの愛液は際限なく溢れだしてきて岡田を悦ばせた。
ことが終わり、雨に濡れた体を車に積んであったタオルで拭い、自動販売機で飲み物を購入して再び車は走りだした。山間を切り崩してつくられた高速道路は視界が開けて気持ちがいい。雲の間から太陽の光がうっすらと差してきた。
「そろそろお腹がすいただろう。もうすぐN県に入るから、高速を降りてすぐのところの蕎麦屋に行こうと思うんだけど、どうかな」
「いいわ、なんでも」
「はは、そういうと思った。実は山本さんも呼んでいるんだ。覚えているかな、あのイベントのときの」
山本――頬にムカデの刺青を貼りつかせた男。特徴的なつるりとした肌を思いだす。あらゆる毛髪が存在しない、不思議な体を持つ男。
「ああ、あのひと……」
高速の降り口がが見える。車はうねるカーブをゆっくりと下り、田畑が両側に連なった道路を真っ直ぐに走り抜けた。水たまりのしぶきが飛ぶ。平和な田舎の風景に、都会的で重厚感のあるこの車は場違いなように思えた。三差路を左に曲がり、やや細い道を直進したところに藁ぶき屋根の古民家風な蕎麦屋があった。
車を降りながら岡田が言う。
「大塚という男が薬を使うといっただろう。少しそれが気になっていたんだ。そんなチンピラみたいな男にたいした策も無いだろうけど、念のためにこっちも打てる手は打っておこうと思ってね」
ガラリと引き戸を開けて中に入ると、そば粉の香りが漂っていた。落ちついた雰囲気が心地良い。ほどなくして、岡田が窓の外に向かって片手を挙げた。すぐに入口から見覚えのある顔がのぞいた。山本は岡田に軽く会釈し、エリナに目を止めると、頬を歪めてぐにゃりと笑った。毒々しい赤のムカデは、やっぱりそこに生きているようにしか見えなかった。
(つづく)