忌まわしい記憶-5
エリナは少し考えて、わかるような気がする、と答えた。あの幼いころの月夜に、母親たちが祖母を殺めた瞬間。怖いだけではない、体がおかしくなってしまうような、初めての感覚が全身を駆け巡ったのを覚えている。そのときはまだ、それが性的な興奮だとはわからなかったのだけれど。
「その感覚はとうてい忘れられるようなものじゃなかった。どうにかして、もう一度あの感覚を味わいたいと思った。どちらにしても、もうそのときの僕には失うものなんか無かったからね。ただ、慎重にやらなくちゃいけない。できれば誰にも見つからずに、継続してその楽しみを味わえる場所が欲しいと思った。それで、あの場所に土地を見つけ、別荘を建てたんだ」
それまで住んでいたマンションを売り払い、会社を辞めて退職金を手にし、いくばくかの預金も切り崩して資金に充てた。いくつかの不動産を扱う知人を通じて、最適な土地を見つけた。他に人が住まないどころか、ほとんど誰も通らないような場所。そこまでの道路は整備されず、知らない者からはほとんど廃道のように見える。背の高い樹木が生い茂り、昼間でも薄暗くじめじめとしている。偶然迷い込むのでもない限り、観光客や他の別荘の住人が近付く気遣いは無かった。
「ひとり目の女は出会い系サイトで見つけた。顔立ちがね、亡くなった彼女によく似ていたんだ。ちょっと良い車で迎えに行って、ホテルのコース料理を一緒に食べて……あとは簡単だった」
トンネルはまだ続いている。岡田の目が危険な光を帯び始める。
「ちょっと僕の別荘までドライブしようか、なんて誘ったら喜んでついてきたよ。建てたばかりの別荘はいまよりももっと綺麗だったし、外観はできるだけ女の子が好みそうなものにしておいたからね。そこまで連れていて、やっぱり帰るなんてゴネられたら面倒だから」
エリナは先月訪れたあの場所の外観を思い出す。たしかに、妙に岡田に似合わないちぐはぐな少女趣味の装飾がされていた。小鳥を誘い込むための罠のようなものだと思えば納得がいく。
「そこで……女の子たちを?」
「そう、殺した。最初は、どの過程に一番興奮するのかがわからなかったんだけど、何回かやるうちにポイントがわかってきた。僕はどうやら、それまでにこにこ笑っていた女たちの目が、究極の恐怖や絶望で歪むのを見たときにとりわけ興奮するらしい。こう、刺すのでも殴るのでもいいんだけど、一気にガツンとやるのがいい。中途半端に嬲ったり、少しずつダメージを与えるなんて言うのは性に合わないな。そうそう、死体に突っ込むのがイイなんて言う奴もいるけど、僕はあんまり良いとは思わなかった」