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鶴女房
【二次創作 官能小説】

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鶴女房-12





「なんだか、いつの間にか外が明るくなってる…」
「ええ。時が経つのは早いものですね」

おつると与平は生まれたままの姿で、床の上で向かい合っていた。
あれから何度果てたかも分からぬほどに、交わり合い、求め合っているうち。気がつけば、宵を越していたのだ。
与平は自分の精力が、まさかここまで強かったとは夢にも思わなかった。また同時に、それほどまでにおつるという女性がいかに自分を夢中にさせたのだと、しみじみ感じていた。
しかし、と与平は思う。いくら向こうが積極的だったとはいえ、自分が彼女を汚してしまったのもまた事実。
あの清廉潔白なおつるさんを自分の小汚い体で犯してしまったという、高尚な芸術品を傷付けてしまったかのような罪悪感に、否が応にも苛まれてしまう。

「どうかなさったのですか? 与平様…。顔色が優れませんが…」
「へ? いや、そんな事ないですって」
「――やはり、人で無いわたくしと契りを交わし合うのは、不気味でしたか…?」

おつるは、自分が人間ではない事をよほど気にしているのだろうか。
彼女の朗らかで明るい表情が、不安の雲に覆われる。

「そんなことない! おつるさんの正体が例え何であろうと、おつるさんはおつるさんだ。不気味だなんて絶対思わない」
「与平様…」
「おつるさんとしたのも嫌じゃない。むしろ、えらい気持よかったし…。それに…」
「それに…?」
「ひょっとしたら、俺も。おつるさんの事を…好いてしまった…のかもしれない。だから…」

自分の素直な気持ちを吐露した事に、思わず気恥ずかしくなる与平。
一方、与平の告白に対しておつるは、先ほどまでの暗い陰りは何処へやら、瞳を陽の光のように輝かせた。

「すると与平様。わたくし、与平様のお側にいてもよろしいのでしょうか…!」
「あ、ちょっと待ってくれ!」
「え?」
「その、いい年した男の癖にさ、女娘に言い寄られてばかりなのは、なんというか…情けないからさ。だから、俺の方から言わせてくれよ」

おつるは一言「そうですか」と言うと、微笑みながら与平の言葉を待った。

「その…俺……」
「はい…」
「俺、貴女を愛している…。この気持ちは本物だ。俺は見ての通り貧乏だし、お前さんに迷惑をかけるかもしれないけど…、これからもずっとずっと、俺と一緒にいて欲しい」
「もちろんですわ…! 与平様とこうしてお傍に添えられるならば、わたくし、他に何も要りません…」

おつると与平は、相手の瞳に自分の顔しか映らないほど、互いに深く見つめ合い、そうして、何方からともなく口づけを交わした。
外は凍えるように寒いけど、愛しあう者同士で寄り添えばきっと暖かい。
幸福に満ちた世界の中で、二人の心が一つになった気がした。

「――あらあら」

ふと、気づけば与平は轟々と寝息を立ていた。

「寝てしまわれましたか。まぁ、無理もありませんか。ふふ…」

おつるは自分との情事に付き合ったせいで疲労困憊になってしまった彼に対し、若干申し訳ない気持ちになりながらも、無防備な寝顔の彼を愛おしく思い、労るように優しく彼を包み込んだ。
そうして、彼女もまた彼に釣られるようにして瞼をそっと閉じた。


あれほど荒れ狂っていた吹雪も今や収まり、暁の空に夜明けが訪れる。
天井板の僅かな隙間から差し込む朝の光明が、まるで夫婦(めおと)の誕生を祝福するかのように、抱き合ったまま安らかに眠る二人の顔を眩く照らしていた。



おわり


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