「こんな日は部屋を出ようよ」後編-6
翌日
昨日のどしゃ降りが嘘のような五月晴れ。なのに、僕の心はまだ、昨日の出来事を引きずって雲っている。
「また、おまえは……」
何時もの学食で、何時ものように頬杖えをついている僕を見て、友人は呆れ顔でため息を吐いていた。
「昨日から試験なんだろ?何を悔やんでんだ」
「別に……そんなんじゃないよ」
僕という人間はどうしてこう、風見のように成り行きによって、気持ちの向きが変わるのだろうか。
一昨日まで、あれ程、感嘆の声を挙げて友人の素晴らしさを称え、彼のようになりたいとさえ思っていたのに、今は又、その何かと首を突っ込みたがる性格に疎ましさを感じている。
「そんなんじゃないって、上手くいってないから悔やんでいるんだろ?何が遭ったんだ」
「別に……」
「従妹のことで、良くないことが遭ったんだろ?」
「もう、放っておいてくれないか……」
避けようなどと思っていないのに、口を吐いて出る言葉は辛辣さを帯びてしまう。
「何言ってんだ。アドバイスしたんだから、最後まで付き合わせろよ」
これで退くかと思ったのに、友人は全くめげた様子もない。“自分には関わる資格がある”とでも言いたげだ。
彼の主張は正しい。
今まで、ルリのことで様々な問題が持ち上がる度に、彼のアドバイスによって乗り越えられたことを鑑みれば、異論など浮かばない。
しかし、そうやって助力を得る度に内情を打ち明けているのを顧みると、些か依存が過ぎるように思えてならない──このままでは、彼女のことを曝け出してしまうと。
そんなことは許さない。彼は友人だが、身内とは違う。
「気持ちはありがたいけど、遠慮してくれないか。この間、言ったように、自分で解決したいんだ」
──これで退かないなら、怒鳴ってでも辞めさせよう。
僕としては、最後通告のつもりだった。
でも、
「ああ。そ、そうだったな……お互いを尊重するんだったよな」
彼はあっさりと引き下がってくれた。
「ごめん。もっと、他のことなら問題ないんだけど……」
「気にすんなッ。その代わり、全部カタが付いた時は教えてくれ」
「分かったよ」
ちょっと残念さを滲ませた顔。その愛嬌ある表情に、僕はつい、笑ってしまった。
「な、何だよ!?突然、笑い出して」
「いや!そんなつもりじゃないんだ」
何とか、危機的状況は避けられた。
この先は全て、自分一人で解決せねばならない。
(最悪、僕が嫌われれば済むことだ……)
そう思った途端、僕の風見はまた友人を称えていた。