「こんな日は部屋を出ようよ」後編-5
「何だよ?言い難そうに」
「別に。何でもないわよ」
「だったら、何でそんな言い方するのさ?」
こんな蒟蒻問答を何度か交わすうちに、母の方が根負けしたようだ。
「……この間も話したと思うけど、ルリちゃんはあんたとは従妹で、まだ中学生なんだからね」
神妙な顔をして何を言い出すかと思えば、以前、聞かされた妄想とは──正直あきれた。
「またその話を蒸し返すの?」
「あんたが一方的に終わらせたのよ」
「もういいだろ」
「あんたを見る、あの子の眼が普通じゃないの。だから、言ってるんじゃない」
「何で、母さんにそんなことが分かるのさ?」
「わたしが女で、そういう経験があるからよ」
母が、自身の経験とルリを同列に見ていることに、僕は嫌悪感を持った。
「そんな心配、してもらわなくて結構だよ!」
僕は、その場から立ち去った──顔も見たくない。
こっちは、ルリが何故、あんな態度を取るのか心配しているのに、下世話な話で首を突っ込んでくるなんて信じられない。
母とはいえ、そのメンタリティーを疑ってしまう。
確かに、僕はルリに好意を持っている。ルリの方も、少しは打ち解けてくれるようになった。
しかし、それは、根幹にある幼少の頃の思い出と、家庭教師という一面を見たことによるもので、さっきのように意志の弱い僕には厳しく接してくる。
これひとつ採っても、彼女は僕を従兄としか思っておらず、それ以上でも以下でもないという証だ。
(こんな簡単なことが、何で解らないんだ……)
──自分の親ながら、情けない!
僕は心の中で、そう叫んでいた。