「こんな日は部屋を出ようよ」後編-4
(そうでないとすれば、他にどんな理由がある?)
逆に、僕のような人間に言われた事が癪に障ったのか。
確かに、嫌味たらしい言い方だったから、機嫌を損ねたのかも知れない。
「なかなか、友人のようにはいかないな……」
どうやら僕は、せっかくの仲直りの機会を、自らのドジによって失ったようだ。
「なんだか、酷く疲れた」
昼下がりの午後。僕は雨が放つ音色に耳を傾けるうちに、ソファーで眠ってしまった。
「ナオッ!いつまで寝てるの」
怒鳴り声で僕は目覚めた。
目の前には、険しい顔をした母が立っていた。
「ああ……母さん、お帰り」
「お帰りじゃないでしょう。何よ、あのお風呂場の脱衣所。床が水浸しじゃない!」
「あッ!」
廊下の方は拭いたが、脱衣所のことまで頭が廻らなかった。
「それと、これは何よ?」
「えっ?」
母がテーブルの上に何かを置いた。僕には、それが何なのか解らなかった。
「何だよ、これ」
「髪留め。あんた、昼間、何をしてたの?」
浮気を見つけられた男性は、総じてこんな気分になるのだろうか。僕は母の炯眼に、頭の中が真っ白になった。
「それは……その……」
「何を隠してるの?誰か来たんでしょう」
その場を取り繕おうとすればする程、母の疑いの眼が、僕を追いつめて行く。
このままでは、謂われのない罪を被せられそうだ。
「その……ルリちゃんが、来たんだ」
「ルリちゃん?ルリちゃんが何しに来たのッ」
僕は、仕方なく有りの儘を語った。すると、母は表情を一変させた。
「今日から中間試験でさ。色々教えてたら、お礼に来たんだ」
「本当に?」
「本当だよ。びしょ濡れになったのを、叔母さんが迎えに来たんだから」
「だったらいいけど……」
急に歯切れが悪くなった。