投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「こんな日は部屋を出ようよ」
【その他 恋愛小説】

「こんな日は部屋を出ようよ」の最初へ 「こんな日は部屋を出ようよ」 26 「こんな日は部屋を出ようよ」 28 「こんな日は部屋を出ようよ」の最後へ

「こんな日は部屋を出ようよ」後編-2

「……ハァ、ハァ、ハァ」

 身悶えする程の苦しみがしばらく続いた後、ようやく息が整いだした。
 僕はキッチンに、水を取りに行った。

「これを飲むと、喉の痛みが和らぐよ」
「は、はい……」

 ルリは、水の入ったコップを口唇に付けると、ゆっくりと傾けた。伸ばした首筋と喉が上下する様は、僕の目を吸い寄せる。

「はあ……」

 ルリは水を半分程飲んで、コップを口許から離した。

「落ち着いた?」
「はい。でも、こんなに苦しいなんて……」

 ──これで辞めるだろう。
 そう思った。が、それは希望的観測に過ぎなかった。
 ルリは再び、吸い口を口許へもって行き、ふた口目をチャレンジしたのだ。

「ぐッ……うう」

 ひと口目は要領も解らず酷い目に遭った分、今度はちゃんと吸い込む量を加減して、咳き込みそうになるのを必死に堪えている。

「どうだい?気分は」
「……口の中と、喉がピリピリして……それに苦い」
「煙が粘膜を刺激してるんだ。もう、その辺で……」

 止めるよう言い掛けた時、僕の声を無視するように、三口目のチャレンジを試みた。今度はほとんど噎せる事も無く、その窄めた唇から白い煙が吐き出された。
 その光景を目の当たりにした瞬間、僕の中に強い嫌悪感が涌き上がった。

「もう、その辺にした方がいい」
「まだ、大丈夫……」

 言葉を振り切り、なおも吸い続けようとしたその時、ルリの身体が突然よろめいた。

「えっ?あれ……」

 意志に反した動きが解せないのか、二度、三度と頭を振るが、やがて座ってさえいられなくなり、遂にはソファーに伏してしまった。

「心配しなくていいよ。煙草の煙に含まれるニコチンや一酸化炭素が作用して、目眩を引き起こしたんだ」
「お腹……痛い……それに吐き気も」

 ルリは伏したまま、お腹に手を当てて苦しそうに顔を歪めている。

「それも大丈夫。煙のせいで、胃が急に収縮したんだ。しばらくすれば治まるよ」

 僕は、灰皿に置かれた、火の着いた煙草をもみ消しながら、苦痛によって無防備になった彼女の肢体に目をやった。


「こんな日は部屋を出ようよ」の最初へ 「こんな日は部屋を出ようよ」 26 「こんな日は部屋を出ようよ」 28 「こんな日は部屋を出ようよ」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前