「こんな日は部屋を出ようよ」後編-2
「……ハァ、ハァ、ハァ」
身悶えする程の苦しみがしばらく続いた後、ようやく息が整いだした。
僕はキッチンに、水を取りに行った。
「これを飲むと、喉の痛みが和らぐよ」
「は、はい……」
ルリは、水の入ったコップを口唇に付けると、ゆっくりと傾けた。伸ばした首筋と喉が上下する様は、僕の目を吸い寄せる。
「はあ……」
ルリは水を半分程飲んで、コップを口許から離した。
「落ち着いた?」
「はい。でも、こんなに苦しいなんて……」
──これで辞めるだろう。
そう思った。が、それは希望的観測に過ぎなかった。
ルリは再び、吸い口を口許へもって行き、ふた口目をチャレンジしたのだ。
「ぐッ……うう」
ひと口目は要領も解らず酷い目に遭った分、今度はちゃんと吸い込む量を加減して、咳き込みそうになるのを必死に堪えている。
「どうだい?気分は」
「……口の中と、喉がピリピリして……それに苦い」
「煙が粘膜を刺激してるんだ。もう、その辺で……」
止めるよう言い掛けた時、僕の声を無視するように、三口目のチャレンジを試みた。今度はほとんど噎せる事も無く、その窄めた唇から白い煙が吐き出された。
その光景を目の当たりにした瞬間、僕の中に強い嫌悪感が涌き上がった。
「もう、その辺にした方がいい」
「まだ、大丈夫……」
言葉を振り切り、なおも吸い続けようとしたその時、ルリの身体が突然よろめいた。
「えっ?あれ……」
意志に反した動きが解せないのか、二度、三度と頭を振るが、やがて座ってさえいられなくなり、遂にはソファーに伏してしまった。
「心配しなくていいよ。煙草の煙に含まれるニコチンや一酸化炭素が作用して、目眩を引き起こしたんだ」
「お腹……痛い……それに吐き気も」
ルリは伏したまま、お腹に手を当てて苦しそうに顔を歪めている。
「それも大丈夫。煙のせいで、胃が急に収縮したんだ。しばらくすれば治まるよ」
僕は、灰皿に置かれた、火の着いた煙草をもみ消しながら、苦痛によって無防備になった彼女の肢体に目をやった。