「こんな日は部屋を出ようよ」後編-15
「貴方の部屋がいいです」
「僕の部屋だって?」
何か企みがあるのだろうが、その聡明な瞳からは窺い知ることは出来ない。
「駄目ですか?」
「い、いや。構わないけど……散らかってるよ」
「構いません」
僕は、彼女を連れて自室へと向かった。
「久しぶりです……ここ」
部屋に入るなり、深く息をするルリ。
「随分と雰囲気も違うし、何より、煙草臭いです」
確かに、七年前に部屋を構成していた物は机以外、全て変わっているし、自分では気づかないが、相当に煙草臭いだろう。
「ちょっと、待ってて。お茶でも持って来るから」
僕は、ルリを部屋に残して階下へと降りて行った。
(どうしようか……)
勢い勇んで謝罪をするつもりだったのに、完全に出鼻を挫かれてしまった。
それにしても、彼女の用とは何なのか。やっぱり、僕を罵りに来たのだろうか。そんな雰囲気は無かったが。
(何れにしても……)
この機会を最大限に利用して、お互いの関係修復を図らなければ、次は何時、訪れるか解らない。
「お待たせ……!」
気持ちを固めた僕が、お茶を持って自室へと戻った時、その目に飛び込んで来たのは本棚を漁っているルリの姿だった。
「な、何をやってんだ!」
「ちょっと探し物」
「探し物って?何を」
「エッチな本を……」
「あのねえ……」
冗談のつもりなのだろうが、今の状況ではどう反応すべきか不明だ。
「それよりさ。さっきの用って?何かな」
「あ、ちょっと待って下さい」
ルリは、散らかした本棚を元通りにすると、勉強机の椅子に腰掛けた。
「この間の模試も、これで作ったんですか?」
彼女の指が、机に置いたノートパソコンを差し示す。
「そうだけど。あれは、僕一人の力じゃなくて、友人も手伝ってくれたんだ」
「いいですね。手伝ってくれる人がいて」
「そうだね。彼には感謝してる」
「羨ましいです。わたしなんか、誰もいないから」
そう言って力無く笑うルリ。
僕は、戸惑った。今まで、頑なにこの手の話を避けてきたのに、何故、急に喋る気になったのだろう。
「……わたしね。裏切られるのが怖いんです」
「だから……人と関わらないで済むように、冷たい態度を採っていたのか?」
「ええ。過去に二度、嫌な思いをしましたから」
──過去に二度だって!叔母の話では、小学校卒業間近に一度だったはずだが。