「こんな日は部屋を出ようよ」後編-13
翌日、僕は体調を崩した。
無理すれば大学に行ける程度の軽い風邪。でも、無理する気力も沸いてこない。
自分だけとなった家で、何も考えることなく、抜け殻の様に過ごしたいと思っていた。
でも、暫くすると“もし、時が戻れば”などと考えている。
なんとも情けない。ほんの半日程前に、全ての可能性を消してルリに別れを告げたはずなのに、もう、後悔の念で心が揺れているなんて。
(こういう部分が見えたから、ルリに嫌われたのかな……)
思えば、ずっとそうだった。
散々、迷った挙げ句に何かを決断しても、時が経つと、それが本当に良策だっただろうかと再び熟考を繰り返す。
思えばそれも、相手のことを慮っての決断ではなく、自分の勝手都合な解釈によって導き出していたのかも知れない。
要は、僕の人としての経験不足が今回の事態を招いた訳で、自業自得なのだ。
「今さら……終わったことを……」
煙草を取って火を点けた。
喫った煙が、滲みるように喉を焦がした。体調が優れないのに、気分じゃないのに、毒を含んでいると解っているのに、それを求めてしまう愚かさ。
(これが原因なのに、まだ僕は……)
僕は煙草をもみ消し、ベッドに潜り込んだ。もう、あれこれ考え込む自分が煩わしかった。
頭の中から、時間の感覚が消えている。薬が効いて、いつの間にか眠ってしまったようだ。
(もう四時か……)
壁の時計で時刻を確かめ、ベッドを這い出た。傍らに置いた携帯が、着信があったのを伝えていた。
(友人からだ……)
連絡もせずに大学を休んだことで、心配でもしてくれたのか。午前と午後に一回ずつ、履歴が残っていた。
僕は、すぐに連絡を入れた。
「どうしたんだ?おまえ」
友人は開口一番、こんな言葉を耳許で言った。
「ちょっと雨に濡れて風邪をひいたんだ。大丈夫。来週には出るよ」
「だったらいいが……」
「どうかしたの?」
僕の問いかけに、友人の口調は歯切れが悪い。
「その……最近、従妹のことでずっと悩んでただろう?だからさ」
「ああ。それなら、もう良いんだ。終わったから」
「終わった?何が終わったんだ」
「家庭教師をね、馘になったんだ」
「馘って、おまえ……」
「安請け合いしたばっかりに、彼女に悪い影響を与えてしまったからね。当然だよ」
思いとは裏腹の、強がりが口を吐いた。
すると、耳許で聞こえる友人の声音が変わった。
「おまえ、それ本気か?」
初めて聞いた、怒りの声だった。
「おまえも、従妹を見捨てるのか?」
「ど、どういう意味だよ?」
「孤独を抱えた従妹を、おまえまで見捨てるのかと訊いてんだ!?」
「それは君の観照が間違ってる。あの子は、そんなに弱い子じゃない」
「どうして、おまえにそれが言い切れる?」
「それは……」
僕は、友人の声に気圧されて、ここ最近の出来事をあらましで伝えた。