「こんな日は部屋を出ようよ」後編-12
「ほら?」
手にした物は、先日、火を点けながらも喫わなかった煙草。先端が焦げている。
「……僕の目を盗んで、持って帰ったのか」
「そうよ。ナオちゃんと喫いたくてね」
僕は、ルリの顔をまともに見ることが出来なかった。
全て僕のせいなのだ。
これ程に、執着するのを辞めないのも、僕との再会が全ての元凶であり、彼女に禍をもたらしたのだ。
何とか別のかたちでと思っていたが、それは無理そうだ。
だったら、責任の取り方はひとつしかない。
「……ルリ。僕はたった今、君の家庭教師を辞めることにした」
残念で堪らない。
だが、こと此処に至っては仕方がない。僕の甘い認識が由々しき事態を招いたのだから。
荷物を鞄に詰めて部屋を出ると、後ろからルリの叫び声が聞こえたが、もう振り返る気にもなれなかった。
これ以上、此処にいれば、今度は別の考えが頭をもたげ、さらに彼女を疵つけてしまう──それは本意じゃない。
「ちょっと、待ってよ!」
「叔母さんには、後で理由を伝えるから……」
ルリに別れを告げて、玄関を飛び出した。外は、梅雨の末期を思わせる程、強い雨が横殴りに降っていた。
傘も差さずに走り出した。
雨が飛礫の様に僕を叩き、あっという間に全身がずぶ濡れになった。
それでも、構わず走った。色んな想いを消し去りたかった。
七年間の空白を埋めれると思っていたのに、自分の浅はかさが全てを台無しにしてしまったのだ。